つい今し方、歯医者へ行くと言って家を出ていった妻が、戻ってきた。
「駐輪場でセミが死んでる」
妻がそう言うので見にいくと、コンクリート地面に仰向けになって転がっているセミがいた。羽根の茶色いアブラゼミだった。
私が手で触れようとすると、ジジッジジジジッと暴れてちょっと羽ばたき、またすぐ地面に倒れた。死んでいない。まだ生きていた。
さてこのままにしておいたところで、どうせ人や自転車に踏み潰されてしまうのがオチだろうし、それも可哀想に思ったので、今度は手で摘まんで、横の植え込みにある低い木の上に置くように軽く放ると、アブラゼミはまたジジジッと鳴いて羽ばたいて、どこかへ飛び去っていった。
「生き返った! 恩返しに来るよ…」
生き返ったというより、まさしく虫の息で死にかけていたアブラゼミの寿命を、ほんの少しだけ延ばしてやれたであろうに過ぎないとは思うのだが、それでも妻の言葉を聞いて、思わずセミ君からのプレゼントを僅かながらも期待してしまった、私であった。
「駐輪場でセミが死んでる」
妻がそう言うので見にいくと、コンクリート地面に仰向けになって転がっているセミがいた。羽根の茶色いアブラゼミだった。
私が手で触れようとすると、ジジッジジジジッと暴れてちょっと羽ばたき、またすぐ地面に倒れた。死んでいない。まだ生きていた。
さてこのままにしておいたところで、どうせ人や自転車に踏み潰されてしまうのがオチだろうし、それも可哀想に思ったので、今度は手で摘まんで、横の植え込みにある低い木の上に置くように軽く放ると、アブラゼミはまたジジジッと鳴いて羽ばたいて、どこかへ飛び去っていった。
「生き返った! 恩返しに来るよ…」
生き返ったというより、まさしく虫の息で死にかけていたアブラゼミの寿命を、ほんの少しだけ延ばしてやれたであろうに過ぎないとは思うのだが、それでも妻の言葉を聞いて、思わずセミ君からのプレゼントを僅かながらも期待してしまった、私であった。