帰り道、バスが来るまで、まだ少し時間があったので、家にいる母松江に電話を入れることにした。バス停のすぐ側にも、赤い公衆電話はあったが、浩人はまだ使ったことがないプッシュ式の電話を一度使ってみたかったので、わざわざ少し離れた信号のある交差点の横断歩道から大通りを渡り、ぐるりと廻って、丁度さっきとは反対側のバス停の側にある、黄色いプッシュ式公衆電話の置かれたボックスに入り、ボタンを押した。
「この電話な、プッシュホンで、かけてんねんでぇ」
得意そうに言った浩人であったが、電話の向こうの松江には、それが見えるはずもなく、声も今までの電話と何ら変わりはない。松江は、それがどうしたのという感じで「あ、そう」というそっけない返事をした後、今度は声の調子を変えて、ゆっくりと、浩人に諭すようにこう続けた。
「あのねえ浩人、あんたな、大宅君て知ってるか? おんなじクラスの大宅君……」
「え……? ああ、確か、生徒会長しとる奴やろ」
「……その大宅君がな、亡くなったんやて。海で溺れて、死なはったそうやで」
冷房など効いているはずのない、真夏の暑い暑い、蒸し風呂のような電話ボックスの中で、浩人は一瞬、その暑さを忘れた。頭がパニックになった。なおも続いて、電話連絡してくれた誰かから聞いたという、告別式の日時を伝える松江の声に、浩人はただ茫然と、そして他人事のように、「ふうん」とか「へえ」とかいう生返事を発するばかりであった。浩人がその時初めて使ったプッシュ式電話は、浩人に思わぬ訃報を伝えた。
家に帰ると、松江が朝刊を見せてくれた。紙面には<中三生 水死>の記事が、小さく載っていた。大宅は担任の白川先生とクラスの仲間ら数人で海水浴へ行き、その内、姿の見えなくなった大宅を捜したところ、数時間後に水死体で発見されたという内容だった。そういえば終業式の日、何人かで待ち合わせ場所の確認らしき話し合いをしていたことを、浩人は思い出していた。
(続く)
「この電話な、プッシュホンで、かけてんねんでぇ」
得意そうに言った浩人であったが、電話の向こうの松江には、それが見えるはずもなく、声も今までの電話と何ら変わりはない。松江は、それがどうしたのという感じで「あ、そう」というそっけない返事をした後、今度は声の調子を変えて、ゆっくりと、浩人に諭すようにこう続けた。
「あのねえ浩人、あんたな、大宅君て知ってるか? おんなじクラスの大宅君……」
「え……? ああ、確か、生徒会長しとる奴やろ」
「……その大宅君がな、亡くなったんやて。海で溺れて、死なはったそうやで」
冷房など効いているはずのない、真夏の暑い暑い、蒸し風呂のような電話ボックスの中で、浩人は一瞬、その暑さを忘れた。頭がパニックになった。なおも続いて、電話連絡してくれた誰かから聞いたという、告別式の日時を伝える松江の声に、浩人はただ茫然と、そして他人事のように、「ふうん」とか「へえ」とかいう生返事を発するばかりであった。浩人がその時初めて使ったプッシュ式電話は、浩人に思わぬ訃報を伝えた。
家に帰ると、松江が朝刊を見せてくれた。紙面には<中三生 水死>の記事が、小さく載っていた。大宅は担任の白川先生とクラスの仲間ら数人で海水浴へ行き、その内、姿の見えなくなった大宅を捜したところ、数時間後に水死体で発見されたという内容だった。そういえば終業式の日、何人かで待ち合わせ場所の確認らしき話し合いをしていたことを、浩人は思い出していた。
(続く)