2013年3月13日(水)
昨日のエッセイサークルで合評したエッセイです。(文中 仮名)
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「雪かき仲間」
朝から、ザーっ、ザーっという音が聞こえる。ああ、もうご近所が雪かきを始めたのだろう。
二度寝して遅れをとってしまったと、ちょっと焦りながら窓のシャッターを開けると、昨夜からの雪で
庭の芝生は真っ白になり、コウノテヒバは、圧し掛かった雪の重みで斜めに傾いでいる。家の前の坂道には、
雪の上に何本もタイヤの跡が着いていた。そして、道の反対側や角の向こうの道路をご主人たちが
せっせと雪かきをしている。このままでは、道を通る人にも難儀だし、家の車も出せなくなるしで、
早めに雪かきをしなくてはならない。気持ちをシャキっとさせようと思うのだが、身体が熱っぽく、
億劫な気持ちは拭えない。
熱を測ると、三十八度ある。寒気もするし、風邪薬を飲んで、炬燵で横になった。テレビでは、
大雪になった関東地方の初雪について盛んに放送していた。歩きにくそうに通勤する若い女性たちの
映像に、様々な電車の路線が運休するというテロップが慌しく流れる。数センチの雪、それは都会では
おおごとだし、転んで怪我をする人たちもきっと出るだろう。この住宅街では、雪の朝にはご近所の
方たちが競うように雪かきをする。私が横になっていても、外から、ザーっ、ザーっという腹に響く音が
侵入してくる。それは、近所の揃い踏みのように聞こえ、「出て来い、出て来い」と不義理な我が家に
呼びかけているようにさえ思える。こういう時に限って夫が留守で、夫に頼むことも出来ない。
私は、家の前だけ雪が残るかと思うといたたまれずに、ついに厚いコートを羽織って雪かきに
出ることにした。
家は十字路の角地だから、ご近所の角の家はみな、雪かきするのは通りに面した二面ある。お向かいの
先田さんのご主人に、「ご精が出ますね~」と、挨拶する。角の向こうの大橋さんはご夫婦で、
もうかなり雪を片付けていた。私は隣の父の家の分もあるから、雪かきとなると人の三倍大変なのだと
思いながら、隣の父の家の前に行くと、居間から父がこちらを見ている。「いいから~」と、手で止め、
私は、まず父の家の前の雪かきから始めた。ザーっと雪かきスコップで道の中央部分から端に雪を
押していくが、水分を含んだ雪は、重く、腰にくる。
ザーっと押して、ギュっと道の端に押し付ける。
ザーっと押して、よっと、雪の山の上に雪を投げる。
いまひとつ身体に力が入らないが、なんとしても家の前の雪をかいておかなくてはならない。
この通りが一列、綺麗に雪をかいてあるのは、まさにご近所力という感じがして、私には好もしかった。
それに、家の前だけ長方形に道路に雪が凍り付いて、ご近所にご迷惑をかけるのはいやだ。
今年はちょっときついが、頑張れ、頑張れ……。
父の家の前の雪をかき、ほっと立ち止まった頃には、ご近所さんたちの姿は無く、ザーっという音が
角の向こうから聞こえてきた。さすがに疲れたなあと思ったとき、
「ウィステさん、お手伝いしましょう」
と、道を挟んで左隣の片山さんの奥さんが寄ってきてくれた。片山さんは越してきてまだ日が浅く、
ゴミ捨て場も違うので、たまに顔を合わせたときに、ちょっと立ち話をするくらいのご近所さんだ。
「あ、いや、悪いわ」と口ごもったけれど、「大丈夫よ」と、彼女はスコップで我が家の前の雪をかきだした。
若い助っ人のパワーにつられて、私ももう一頑張りと気力が湧いて来た。
ザーっ、ザーっと、勢いがついてきた。
ザーっ、ザーっと、並んで、雪を道の端に寄せていく。
彼女に引っ張られて、雪かきも、どんどん捗る。
最後の雪をかき寄せて、私は、
「あ~、ありがとう。私、熱出していて、本当に助かったわ」
と、お腹から声をあげてしまった。彼女は、ちょっとびっくりしていた。
それから、彼女と、友達になった……。
今年も初雪がどっさり降った。だが、以前なら、ご近所の共同作業のようだった雪かきが、
三、四年くらい前から様子が変っていた。雪の朝だというのに、あの大橋さんが外に出なくなったのだ。
陽が高くなって緩んできたころに雪をかいている大橋さんのご主人の姿を窓越しに見て、
「ああ、お年を召したんだなあ」と、思った。大橋さんが遅くなると、それぞれ定年を迎えていた
近所のご主人たちの雪かきの時間もばらばらになった。雪かきをしないと、翌日に道路がアイスバーンに
なってしまい、自分が車を出すのも危ないので、私も近所の方たちもするにはする。もう、外からの
ザーっという音に、圧迫感は無くなったが、夫も父も亡くなり、私しか雪かきをする人がいないという
現実はズンと腹に重い。そして、私は、太陽がこちらの道路を照らすようになる午後から、雪かきを始める。
朝よりずっと楽に出来て助かるのだ。私は、一人、いや、お日様をお仲間に、ザーっと、雪かきをしていった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
今年、雪はもういいね。
今日は温かいけれど、風がすごくて、道端の畑からの土ぼこりの中に車を突っ込んでいくと、
ああ、この前、洗車したばかりなのに・・と、思う。(^^;)
でも、今夜は雨で、明日はまた寒さがぶりかえすそう。
風邪ひかないように、気をつけましょう・・・。
昨日のエッセイサークルで合評したエッセイです。(文中 仮名)
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「雪かき仲間」
朝から、ザーっ、ザーっという音が聞こえる。ああ、もうご近所が雪かきを始めたのだろう。
二度寝して遅れをとってしまったと、ちょっと焦りながら窓のシャッターを開けると、昨夜からの雪で
庭の芝生は真っ白になり、コウノテヒバは、圧し掛かった雪の重みで斜めに傾いでいる。家の前の坂道には、
雪の上に何本もタイヤの跡が着いていた。そして、道の反対側や角の向こうの道路をご主人たちが
せっせと雪かきをしている。このままでは、道を通る人にも難儀だし、家の車も出せなくなるしで、
早めに雪かきをしなくてはならない。気持ちをシャキっとさせようと思うのだが、身体が熱っぽく、
億劫な気持ちは拭えない。
熱を測ると、三十八度ある。寒気もするし、風邪薬を飲んで、炬燵で横になった。テレビでは、
大雪になった関東地方の初雪について盛んに放送していた。歩きにくそうに通勤する若い女性たちの
映像に、様々な電車の路線が運休するというテロップが慌しく流れる。数センチの雪、それは都会では
おおごとだし、転んで怪我をする人たちもきっと出るだろう。この住宅街では、雪の朝にはご近所の
方たちが競うように雪かきをする。私が横になっていても、外から、ザーっ、ザーっという腹に響く音が
侵入してくる。それは、近所の揃い踏みのように聞こえ、「出て来い、出て来い」と不義理な我が家に
呼びかけているようにさえ思える。こういう時に限って夫が留守で、夫に頼むことも出来ない。
私は、家の前だけ雪が残るかと思うといたたまれずに、ついに厚いコートを羽織って雪かきに
出ることにした。
家は十字路の角地だから、ご近所の角の家はみな、雪かきするのは通りに面した二面ある。お向かいの
先田さんのご主人に、「ご精が出ますね~」と、挨拶する。角の向こうの大橋さんはご夫婦で、
もうかなり雪を片付けていた。私は隣の父の家の分もあるから、雪かきとなると人の三倍大変なのだと
思いながら、隣の父の家の前に行くと、居間から父がこちらを見ている。「いいから~」と、手で止め、
私は、まず父の家の前の雪かきから始めた。ザーっと雪かきスコップで道の中央部分から端に雪を
押していくが、水分を含んだ雪は、重く、腰にくる。
ザーっと押して、ギュっと道の端に押し付ける。
ザーっと押して、よっと、雪の山の上に雪を投げる。
いまひとつ身体に力が入らないが、なんとしても家の前の雪をかいておかなくてはならない。
この通りが一列、綺麗に雪をかいてあるのは、まさにご近所力という感じがして、私には好もしかった。
それに、家の前だけ長方形に道路に雪が凍り付いて、ご近所にご迷惑をかけるのはいやだ。
今年はちょっときついが、頑張れ、頑張れ……。
父の家の前の雪をかき、ほっと立ち止まった頃には、ご近所さんたちの姿は無く、ザーっという音が
角の向こうから聞こえてきた。さすがに疲れたなあと思ったとき、
「ウィステさん、お手伝いしましょう」
と、道を挟んで左隣の片山さんの奥さんが寄ってきてくれた。片山さんは越してきてまだ日が浅く、
ゴミ捨て場も違うので、たまに顔を合わせたときに、ちょっと立ち話をするくらいのご近所さんだ。
「あ、いや、悪いわ」と口ごもったけれど、「大丈夫よ」と、彼女はスコップで我が家の前の雪をかきだした。
若い助っ人のパワーにつられて、私ももう一頑張りと気力が湧いて来た。
ザーっ、ザーっと、勢いがついてきた。
ザーっ、ザーっと、並んで、雪を道の端に寄せていく。
彼女に引っ張られて、雪かきも、どんどん捗る。
最後の雪をかき寄せて、私は、
「あ~、ありがとう。私、熱出していて、本当に助かったわ」
と、お腹から声をあげてしまった。彼女は、ちょっとびっくりしていた。
それから、彼女と、友達になった……。
今年も初雪がどっさり降った。だが、以前なら、ご近所の共同作業のようだった雪かきが、
三、四年くらい前から様子が変っていた。雪の朝だというのに、あの大橋さんが外に出なくなったのだ。
陽が高くなって緩んできたころに雪をかいている大橋さんのご主人の姿を窓越しに見て、
「ああ、お年を召したんだなあ」と、思った。大橋さんが遅くなると、それぞれ定年を迎えていた
近所のご主人たちの雪かきの時間もばらばらになった。雪かきをしないと、翌日に道路がアイスバーンに
なってしまい、自分が車を出すのも危ないので、私も近所の方たちもするにはする。もう、外からの
ザーっという音に、圧迫感は無くなったが、夫も父も亡くなり、私しか雪かきをする人がいないという
現実はズンと腹に重い。そして、私は、太陽がこちらの道路を照らすようになる午後から、雪かきを始める。
朝よりずっと楽に出来て助かるのだ。私は、一人、いや、お日様をお仲間に、ザーっと、雪かきをしていった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
今年、雪はもういいね。
今日は温かいけれど、風がすごくて、道端の畑からの土ぼこりの中に車を突っ込んでいくと、
ああ、この前、洗車したばかりなのに・・と、思う。(^^;)
でも、今夜は雨で、明日はまた寒さがぶりかえすそう。
風邪ひかないように、気をつけましょう・・・。