一生に一度ひらくという窓のむこう あなたは靴をそろえる
「ひとさらい」笹井宏之
一生に一度ひらく窓。
一度ひらき、そして閉まると永遠にひらかない窓。
不可逆。
窓のむこうの世界で靴をそろえて待つ人。
その世界を僕が想像する時、いつも光に溢れていて、ほとんどぼんやりとしかあなたが見えない。
あなたは女性だ。
ベージュのカーディガンと白のブラウス、麻のロングスカートが余計にあなたをぼんやりとした光のオーラでぼやけさせてしまう。
それを見ている僕は六歳にも満たいない少年だ。
しばらく見ているとその女性は腕を広げる。
近づこうとするけれど、何故か動けない。
とても、強い力でこちら側の世界に引っ張られる。という訳ではなく何とも説明のつかない不思議な麻酔を注射されたように動けない。
しばらくそうしていると、外側を覆うもののない僕の純粋な中身だけが窓を通る。
あなたの腕が僕の中身の背中に触れる前、つまり抱かれる少し前で終わる。
抱かれてしまえば、窓は閉まるだろう。
だから、靴は履かない。
履けないのだ。
靴はそのままの状態である。
必ずいつか僕はそちらの世界に行き、その腕に抱かれるだろう。
待ってくれている女性を想像すると、この世界にいる僕は一息つける。
ほんの一息だけれども、深い一息を。
それは救いだ。
「ひとさらい」笹井宏之
一生に一度ひらく窓。
一度ひらき、そして閉まると永遠にひらかない窓。
不可逆。
窓のむこうの世界で靴をそろえて待つ人。
その世界を僕が想像する時、いつも光に溢れていて、ほとんどぼんやりとしかあなたが見えない。
あなたは女性だ。
ベージュのカーディガンと白のブラウス、麻のロングスカートが余計にあなたをぼんやりとした光のオーラでぼやけさせてしまう。
それを見ている僕は六歳にも満たいない少年だ。
しばらく見ているとその女性は腕を広げる。
近づこうとするけれど、何故か動けない。
とても、強い力でこちら側の世界に引っ張られる。という訳ではなく何とも説明のつかない不思議な麻酔を注射されたように動けない。
しばらくそうしていると、外側を覆うもののない僕の純粋な中身だけが窓を通る。
あなたの腕が僕の中身の背中に触れる前、つまり抱かれる少し前で終わる。
抱かれてしまえば、窓は閉まるだろう。
だから、靴は履かない。
履けないのだ。
靴はそのままの状態である。
必ずいつか僕はそちらの世界に行き、その腕に抱かれるだろう。
待ってくれている女性を想像すると、この世界にいる僕は一息つける。
ほんの一息だけれども、深い一息を。
それは救いだ。