この山の付近の住民は、案山子を森の奥深くへ運び込むのを習わしとしている。
山の傾斜には既に数百体以上の案山子が埋められたが、いずれの案山子も住民6人がかりでなければ運べない程の巨木を削って作られ、案山子を地面に突き刺す根元部分などは悠に人の胴回り以上はあった。
案山子は衣服を何も身につけていない状態で植えられるにも関わらず、住民がふと山に出向くと、いつのまにか丈夫な生地で縫われた衣服を身につけている。
案山子の、木の肌を覆い隠すように。
そして住民は誰一人として誰が布を着せたか分からない。
また、そもそも顔の部分にしても、住民は一切技巧を凝らさず、いわばのっぺらぼうの状態で案山子を植え付ける。
にも関わらず、ふと山に出向くと、案山子の顔にはへのへのもへじの刻印が刻まれ、その刻印に沿う形で、案山子の表面は異なる成長を遂げる。
例えば盛り上がっていった部分は徐々に高い鼻の形を成していき、人の眉に相当する部分には苔が増し、顔の輪郭が浮き彫りになっていく。
案山子の胴体の何処かには必ず、住民がこれまでの生で大事にしてきた物が埋め込まれている。口説いようだが、こちらも住民の知らないところで事は進んでいる。
態様こそ異なるが、それらは一様にポンプの役目を果たし、案山子の全身へ漏れなくほの蒼い光を送り出す。
光はいつしか案山子の姿全体を覆い尽くし、住民が気づくと案山子は既にそこにはいない。
山に今、案山子は一つもない。村にはただ、巨木のみがある。住民はまたこの巨木の出どころが分からない。
山の傾斜には既に数百体以上の案山子が埋められたが、いずれの案山子も住民6人がかりでなければ運べない程の巨木を削って作られ、案山子を地面に突き刺す根元部分などは悠に人の胴回り以上はあった。
案山子は衣服を何も身につけていない状態で植えられるにも関わらず、住民がふと山に出向くと、いつのまにか丈夫な生地で縫われた衣服を身につけている。
案山子の、木の肌を覆い隠すように。
そして住民は誰一人として誰が布を着せたか分からない。
また、そもそも顔の部分にしても、住民は一切技巧を凝らさず、いわばのっぺらぼうの状態で案山子を植え付ける。
にも関わらず、ふと山に出向くと、案山子の顔にはへのへのもへじの刻印が刻まれ、その刻印に沿う形で、案山子の表面は異なる成長を遂げる。
例えば盛り上がっていった部分は徐々に高い鼻の形を成していき、人の眉に相当する部分には苔が増し、顔の輪郭が浮き彫りになっていく。
案山子の胴体の何処かには必ず、住民がこれまでの生で大事にしてきた物が埋め込まれている。口説いようだが、こちらも住民の知らないところで事は進んでいる。
態様こそ異なるが、それらは一様にポンプの役目を果たし、案山子の全身へ漏れなくほの蒼い光を送り出す。
光はいつしか案山子の姿全体を覆い尽くし、住民が気づくと案山子は既にそこにはいない。
山に今、案山子は一つもない。村にはただ、巨木のみがある。住民はまたこの巨木の出どころが分からない。
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