淑徳大学 結城康博 教授
“介護にデジタル技術” 現場の人手不足 打開のカギとなるか | NHK 2024年11月10日 18時54分
“介護現場での人手不足”が深刻です。
今後、介護が必要な高齢者の人数が増える一方で、支える側の介護事業者の倒産が過去最多となる深刻な状況となっているためです。
こうした状況を打開すると期待されているのが「介護現場のデジタル化」です。
事態の解消につながるのか。
介護を取り巻く厳しい人手不足
厚生労働省によりますと、介護が必要な高齢者の数はことし7月末時点で717万7266人で、介護保険制度が始まった2000年4月末時点の218万1621人から3.2倍に増えています。
それに加えて、来年は1947年から3年間の「第一次ベビーブーム」の時期に生まれた「団塊の世代」のすべての人が75歳以上の後期高齢者となり、さらに介護を必要とする人は増加するとされています。
一方、介護が必要な高齢者を支える介護サービスの側は、人手不足などの影響が深刻になっています。ことし1月から10月に倒産した介護事業者は東京商工リサーチの調査では全国で145件にのぼり、これまで最も多かったおととしの年間143件を上回って、過去最多となり、背景には人手不足や物価高騰の影響などが考えられるとしています。
また、今後、必要となる介護職員は2026年に240万人と試算されていますが、2022年度の介護職員の数はおよそ215万4000人です。人手不足が深刻となるなか、いかに制度を維持していくかが課題になっています。
施設閉鎖で家族の負担が増加するケースも
こうした中で、地元の施設が閉鎖するという地域も出てきています。
北海道弟子屈町で95歳の父親と2人で暮らす三浦通さん(64)です。
父親の昭四郎さんは脳梗塞の後遺症のリハビリのため町内の通所施設を週2回利用し、入浴のサービスも受けていましたが、この施設がことし9月、人手不足や物価高騰などの影響を受けて閉鎖となりました。
三浦さんは、町内のデイサービスが利用できる施設を希望しましたが空きはなく、父親は外出する機会がほとんどなくなったほか、三浦さんの姉が車で片道1時間半かけて自宅を訪れ、2人で入浴の介助を行っています。
幸い、町内の訪問介護サービスを今月から週1回利用できることになり、自宅で入浴の介助を受けられることになりましたが、自宅の浴室のバリアフリー化が必要となり、新たに手すりを設置したり滑り止めのマットを購入したりしました。
一方で、リハビリは受けられないため、三浦さんは父親の運動機能がいっそう低下するのではないかと心配しています。
三浦 通さん
「利用していた施設がなくなると知ったとき、まず『どうしよう』と思いました。私もいつまで元気でいられるか分かりませんし、高齢者を受け入れる施設が町からなくなっていくことに不安を感じています」
注目
人手不足の解消へ 介護に“デジタル技術”
国は今後、介護サービスの需要が増え、人材不足がさらに大きな課題になることが見込まれるとして、デジタル技術を活用した業務の効率化を推進しています。今年度、介護施設がより効率的に仕事を進める目的でICT化を導入した場合、介護報酬が加算される改定も行われました。
デジタル技術の活用を進める大分市の高齢者福祉施設です。
ベッドに取り付けられたセンサー
こちらは、利用者のベッドに取り付けられたセンサーです。
共用スペースに設置したパソコンで全員の心拍数や呼吸数ベッドでの寝返りなどを確認できるようにしました。また、センサーが異変を感知するとすぐにアラートで知らせます。
血圧などのデータを音声入力
さらに、毎日行っている利用者の血圧測定の結果などは音声入力で記録することで、これまでの10分の1程度に時間を短縮できるようになりました。
この施設では今年度の介護職員の離職率は6%で、介護労働安定センターによる介護職員の令和5年度の離職率の全国平均13.1%を大きく下回っています。
23歳の職員
「同じように介護業界に就職した同級生は身体的にも精神的にも負担が大きいという理由で辞めてしまう人も増えていて、この職場の話をすると半分信じてもらえないこともあります。負担も少ないので、これからも働いていきたいです」
施設を運営する社会福祉法人「大翔会」の渡邉利章理事長は次のように話しています。
渡邉利章 理事長
「『お金がないからDX化はできない』『導入しなくても事業ができているから大丈夫』と思っていても、人材不足は間違いなく身に降りかかってくることなので、今、投資をしてDX化を図らなければ人手不足になったときに本来やりたい介護ができないことにつながってしまうと思う」
専門家「導入経費が高額 限られた介護事業所しかできない」
介護の問題に詳しい淑徳大学の結城康博教授は介護事業者の倒産が過去最多となったことについて次のように指摘しています。
淑徳大学 結城康博 教授
「人材不足に加え、事業を運営していくためのガソリン代や衛生用品など経費もかかり事業継続が困難になっている。介護業界でも賃金が上がっているとはいえ、ほかの産業の賃金が非常に上がっているため、介護人材の流出が加速化してしまっている状態だ」
また、介護現場でのDX化については「DX化やICT化によって介護職員の負担が軽減する効果はある」とする一方で「導入経費が非常に高いので限られた介護事業所にしかできない」と指摘しています。
人手不足の解消に向けては…
「国は少なくとも3%から5%程度介護報酬を上げ、業界の賃上げ幅を一般的な中小企業と同程度にすることが求められている。そうしなければますます介護人材が獲得できなくなる。介護業界が魅力あるものに労働市場で示していく政策をしていかないとますます介護難民が続出すると思う」