日本人の80%はこの栄養素が不足している…医師が「メンタルに効く」と勧めるスーパーにある"食材の名前"
9/6(金) 16:17配信
心身ともに健康に過ごすにはどうすればいいのか。医師の満尾正さんは「健康なメンタルを維持するためにはビタミンDの摂取が有効だ。私のクリニックでも初診時検査でビタミンDを調べているが、約80%の人に不足が認められている」という――。
【写真】医師が「メンタルに効く」と勧める“身近な食材”
※本稿は、満尾正『食べる投資 ハーバードが教える世界最高の食事術[文庫版]』(アチーブメント出版)の一部を再編集したものです。
■「病は気から」は医学的に正しい
「病は気から」という言葉があるように、体と心はつながっているといわれています。
確かに体の調子が悪いときにはどうにもネガティブになりますし、心が荒んでいるときには頭痛やめまい、ふらつきなどの異変が起こりがちです。
そのような関係性を思い込みだ、と解釈する人もいますが、近年、現代型栄養失調が、生活習慣病だけでなく、うつ病などの心の病を発症する大きな原因のひとつになっていることがわかってきました。
うつ病を引き起こす主な原因は、脳内の神経伝達物質が不活性化することだといわれています。例えば、幸せを感じるホルモンのセロトニンは睡眠や精神安定に関わる物質で、不足すると睡眠障害や不安感などマイナスの精神症状に陥りやすくなります。
セロトニンの原料は、必須アミノ酸の一つ「トリプトファン」です。必須アミノ酸は体内で必要量が生成できないため、食事からとる必要があります。
トリプトファンを多く含んでいるのは、肉、魚、豆類といった食材です。しかしながら、トリプトファンをとるだけでは、セロトニンは合成されません。
■精神疾患の予防・改善に有効な「ビタミン」とは
合成の過程には、タンパク質代謝に大きく関わる「ビタミンB6」と「鉄」が不可欠で、その他、脳神経の正常な働きに関わる「ビタミンB12」、神経伝達物質を放出するときに必要となる「カルシウム」「マグネシウム」を十分量、摂取して初めて脳内にセロトニンが分泌され「幸せ」を感じることができるのです。
このように、セロトニンの合成一つ取っても、6種の異なる栄養素が登場します。
糖質の摂取が多く、ビタミン・ミネラルが不足する現代型栄養失調の状態では、精神を安定させる神経伝達物質が不足してうつ状態に陥りやすくなってしまいます。
また「ビタミンD」の摂取が、うつ病をはじめとした精神疾患の予防・改善に有効ということも、多くの研究によって明らかにされています。
ビタミンDの受容体が、脳内の前頭前皮質や海馬、視床、視床下部などの部位に多く発現していることから、ビタミンDが脳を酸化ストレスから保護する一方、ドーパミンやノルアドレナリンといった神経伝達物質の作用を改善させる働きがあることがわかっています。
こうしたビタミンDの働きは、ビタミンというよりもむしろホルモンに近い、極めて重要なものだといえます。ビタミンDは他の栄養素が入り込めない脳の関所を難なくすり抜けたり、細胞のバリアである細胞膜を越え、核に直接作用することができる、非常に特殊なビタミンです。この性質を持つものは、性ホルモンや副腎皮質ホルモンなど限られたものしかありません。
■約80%の人に「ビタミンD不足」が認められる
この特殊な性質から、ビタミンDは「一種のホルモン」として世界中のアンチエイジング研究者が注目をする、重要な栄養素です。
うつの予防だけでなく、体の炎症を抑え、骨を強くしたり、筋力を保持したり、最近ではがんの予防や進行を防ぐ効果についても研究されています。
ビタミンDは、日光に当たることで皮膚で生成されます。また、食事からの補給も可能で、特に鮭や青魚に豊富です。
「そんなに簡単なんだ!」と思われるかもしれませんが、いずれもなかなか頻度を上げることが難しい習慣のため、現代人は慢性的なビタミンD不足に陥っています。年々、うつ病の発症率が高まっているというのも、ビタミンD不足が原因の一つかもしれません。
当院の外来でも、初診時検査でビタミンDを調べていますが、約80%の人にビタミンD不足が認められています。
年齢とともに、皮膚で作られるビタミンDの量は減っていきます。また、加齢に伴って食事の全体量も減ってくるため、必然的にビタミンDの血中濃度は低下しがちに。
日光浴や食事以外の方法で補充するためには、サプリメント(ビタミンD3)の活用がおすすめです。
■日本の栄養学は20年遅れている
ここまで働き盛りの皆さんが直面しやすい症状をピックアップしながら、さまざまな話を続けてきました。
血圧にしろコレステロールにしろ、おそらく皆さんがこれまで「常識」だと思っていた対処法が、実は思い込みにすぎなかったことがわかってきたのではないでしょうか。
なぜ、このようなことが起こるのか。一つは、あらかじめお伝えしていた通り、日本の医学部では栄養を学ぶ機会を設けていないからです。医師として患者との触れ合いを通して予防医療の重要性を知り、栄養医学の存在と出合った者だけが自分の意志で学び、初めて身につくものなのです。
近所の病院で栄養について相談にのってもらおうと思っても、なかなかうまくはいきません。なぜなら、日本の栄養学は20年は遅れているからです。
日本ではよく、健康でいるための食事術として「カロリー」を用いますが、そのたびに私は「ナンセンスだな」と感じています。なぜなら、食べたものすべてが燃えるわけではないと考えているからです。人の体は、ブラックボックスと同じです。個人によって状態は大きく異なりますし、その日によっても調子は変わる。目安として使うことはありますが、カロリーの高い・低いだけでチョイスを決めるのは、いかがなものでしょうか。
■あらゆる数値の中で最も注意すべきは「血糖値」
ここ数年、欧米における予防医学界が掲げている最大のテーマは「ビジネスパーソンの健康をいかに保つか」ということです。
企業が社員一人一人の生産性を上げてサステイナブルな経営をしていくためには、「社員の体と心を健全化して、1人ひとりのパフォーマンスをアップしていくしかない」というところに気づきを得たためです。
社員の心身のコンディションを最適な状態になるようサポートすることで、生産性の向上だけでなく、近年国内で増えている労働者のうつ病の発生を抑えたり、離職を防止したりすることにもつながります。
労働者の体と心の健全化のために、最も重要なことは何でしょうか?
これについて「血糖値のコントロール」と結論づけたのが、NASAでした。宇宙空間で働く宇宙飛行士のメンタル、注意力、学習能力、判断能力、コミュニケーション能力などのパフォーマンスに、血糖値が強い影響を与えていることを明らかにしたのです。その後、米国の企業にも、従業員の健康管理の大きな柱として、血糖値コントロールを取り入れる動きが表れました。
ランチに大盛りのラーメンライスを食べ、午後に血糖値の急上昇「血糖値スパイク」を起こしてしまっては、眠気とイライラに襲われてパフォーマンスが極端に低下することは避けられません。
こうした従業員が多数を占めれば、当然ながら企業の業績は落ちますから、社員の血糖値マネジメントを行うことは生産性の向上に大きな効果があると期待できるのではないでしょうか。
■猛スピードで開発が進む「健康管理デバイス」
ただし、今の日本においては、先にもお伝えした通り、健康診断を年に1度だけ行っている企業がほとんどです。心電図を測り、バリウムを飲ませてレントゲン検査をするといった、おなじみの方法です。果たして、従業員の心身の健全化がそれでマネジメントできるのかどうかは大きな疑問です。
現在は、体に針を刺して血液を採取せずとも血糖値が測定できる、ポータブルな医療器具の開発が進んでいます。
そして、グーグル、アマゾン、アップルなど、世界有数のテクノロジー企業が、アプリやスマートウオッチなど、競って血糖値管理のデバイス開発に投資をしています。世界中で激増する糖尿病患者に対して、猛スピードでその新しいツールやサービスを提供しようとしているのです。
病院へ行かなくても、体に針を刺さなくても、自分で簡単に血糖値の管理が行える未来が、すぐそこにやってきています。
航空機のパイロットがフライト前に呼気のアルコール濃度を検査するように、一般企業でも、就業前に従業員が自らの血糖値を計測し、コンディションチェックをする社会が実現するかもしれません。
もちろんそれは、企業が従業員の不健康を取り締まるためではなく、ビジネスパーソン自身が自分の健康状態を把握して、健康を積極的に自主管理する意識を培うためのものになればよいと思います。
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満尾 正(みつお・ただし)
米国先端医療学会理事、医学博士
1957年横浜生まれ。北海道大学医学部卒業後、内科研修を経て杏林大学救急医学教室講師として救急救命医療に従事。ハーバード大学外科代謝栄養研究室研究員、救急振興財団東京研修所主任教授を経た後、日本で初めてのアンチエイジング専門病院「満尾クリニック」を開設。米国アンチエイジング学会(A4M)認定医(日本人初)、米国先端医療学会(ACAM)キレーション治療認定医の資格を併せ持つ、唯一の日本人医師。キレーション治療の経験は延べ5万件を超える。著書に『ハーバードが教える 最高の長寿食』(朝日新書)、『医者が教える「最高の栄養」 ビタミンDが病気にならない体をつくる』(KADOKAWA)、『世界最新の医療データが示す 最強の食事術』(小学館)など多数。
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米国先端医療学会理事、医学博士 満尾 正