10/8 晴れ
凛とした空気の中で目を覚ます。上高地に朝靄が立ち籠め、乗鞍と焼岳に朝陽が中る。
足元はまだ薄暗いのでヘッドランプを着けて歩き出した。
標高が上がると共に空気が薄くなり一歩一歩が結構きつい。森林限界を抜ければ空に登って行く感じだ。あの向こうに山頂が待っている。
紀美子平から正面の西穂高方面を眺める。紀美子平は重太郎新道を作った重太郎が幼い娘の紀美子を寝かせるテントを張っていた場所で、23歳で急逝した紀美子の名前でいつしか呼ばれるようになった場所だ。我が子を失う悲しみ以上の悲しみはないだろう。ここにザックを置いて少し休み前穂の頂を目指した。
前穂高岳の頂には絶景が待っていた。南東の雲海のずっと向こうに富士山がちょこんとあった。
北を見ると槍ヶ岳とそこに続く東鎌尾根の全容が見えた。北穂高岳への登山道もよく見える。
手前の岩場でバリエーションルートの北尾根を登って来た人が手を降ってくれた。
山頂で30分ぐらい景色を楽しんで前穂高岳を後にする。少し行って振り返る、雲上を行く気分はカモシカだ。
少しずつ奥穂高岳が近づいてくる。この道を歩ける幸せを噛み締めて進む。
そして奥穂高岳の頂が見えた。人の姿が見えるところが山頂だろう。
山頂付近は多くの人が楽しそうにしていた。せっかくなのでソロの人にお願いして写真を撮りあった。
ヤッホ!山の神に手を合わせて万歳!ん、お腹出てるな。お腹に貯めた脂肪を燃やしてどこまでも行ける、と誰かが言ったかもしれない。
奥穂から眺めるジャンダルム、小さなハーフドームみたい。頂に人が立っている。ハーフドームはカリフォルニアのヨセミテ公園にある岩山だ。
天空の道と呼ぶに相応しい道を行く。穂高岳山荘の真上から涸沢岳と北穂岳を望む。
急峻な道を下って穂高岳山荘に到着し、今日の幕営地がある涸沢を覗き込む。カールの向こうに屏風岩、そのまた向こうに端正な常念岳。
ここから国設涸沢野営場までザイテングラートと呼ばれる尾根道をゆっくりと降る。久し振りの山歩きで脚が少し痛い。事故は疲労の溜まった下山時に起きるのだ。
振り返れば涸沢岳と涸沢槍、秋の山に七竈(ナナカマド)は外せない。
テントを張ったら涸沢ヒュッテのパノラマ食堂でおでんをいただく。今回のお楽しみはビールとこのおでんなのだ。あ、終わりそうな紅葉も。
涸沢岳から北穂高岳に連なる岩の白さが美しい。カラフルなテントもいい感じ。ヤッホ!ヤッホ!と心の中で呟いておく。
テントに戻っていつものようにパスタを食べてワインを飲んでフワフワした気分で山を眺め続けた。