ランチを召し上がっていたサウンド・エンジニアの方と隣り合わせたある日、レコーディングの話になった。
二日も三日も徹夜する音漬けの仕事は、肉体的、精神的に極限状態を続けるわけで体に良いわけがない。
どんな職業でも「仕事モードになるまで」が億劫で、立ち上がりたくないもの。
一旦仕事モードに入ると、今度は終わりがなくなるのもオトコの性か。
しっかりランチを召し上がった彼は、タバコと長い缶ビールをふた缶手にしてお店に戻ってきた。
「飲」と「食」の順番が変なのは、徹夜明けの証拠、ジョッキに丁寧にビールを注ぐと美味しそうに飲み干した。
ボツリボツリと話し始めた彼は、どうやら終えた仕事の「OK待ち」をしていたようだ。
映像を見ながら音楽や効果音をあてはめていく仕事の存在は知っていたし、音源を提供するミュージシャンの話も聞いたことがある。
そこでは世界中の音楽が対象であり、地球上のあらゆる音が対象になる。
博識と豊かな感性が求められる上に、納期や注文に対するストレス耐性が相当強くないと務まらないだろう。
ここでも例外でなく「Pro Tools」が使われているようで、腕が固まるくらいキーボードに向かうのが仕事の大半のようだ。
彼が重用されるのはおそらくお任せで進行する仕事ぶりと信頼感、それからプロとしてのこだわりだろうか。
スタジオで自分が弾いた音の編集を何回も聴いていると何が何だかわからなくなることがある。
それくらい長時間エンジニアさんには作業をお願いするのだが、聴けば聴くほどベースの低音成分や倍音など音質に関する感覚が鈍くなってくる。
彼が師匠に言われたことは「同じ楽器を5秒以上聴くな」だそうだ。
これは名言だ、ベースが好きな自分はどうしてもベースを中心に聴いてしまうが、そればかり気にしていれば全体を見失う。
「Forgiven」誤ってラム樽に仕込んでしまったというバーボンをロックでおかわりする彼と話に興じていたら夕方になってしまった。
「ミュージシャンは音楽を作ってなんぼ」という彼の言葉を耳にして帰途についた。
翌日、車のラジオから、若いシンガーソングライター嬢のスタジオ・セッションが流れた。
キーボードの弾き語りで歌う「はっぴいえんど」の「風を集めて」だった。
「こんな曲を一生に一曲でいいから、書いてみたい」という彼女の一言が印象的だった。
「歌詞が素晴らしい」とも。
細野さんの作曲、作詞は松本隆さんだそうだ。
そよかな風の中で歩きながら口ずさむメロディ、そしてそんなそよ風が大挙して私を空へ押し上げてくれるような高揚感、
歌詞も素晴らしいが、楽曲がなんとも言えずフーテナニーで体言止め、なるほど作ろうとしてできる曲とは思えない。
さて曲を作るってどういうことか、と考えながら、昨日の彼の仕事ぶりをTVで見た。
映像を見て音を入れるってことは大変な作業だし、無限大の選択肢からどれをチョイスするか、許容力と「センス」か、
名曲は、永遠に残る。
Happy End - Kaze Wo Atsumete 風をあつめて"Gather the Wind" (Live 1985) All Together Now
矢野顕子 風をあつめて
ありがとう _ 細野晴臣&小坂忠.mpg
Go!Go!Niagara 松本隆 #1/4
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