複数のネックを備えた一台のギターを「マルチ・ネック・ギター」と呼ぶ。
眼にするところでは、6弦と12弦ネックの「ダブル・ネック」だろう。
ソリッドのエレクトリック・ギターが開発されて以来、一台のギターに複数のネックを取り付けることは容易になった。
複数のネックをセットする目的は様々だ。
複数のチューニングで弾きたいというスティール・ギタリストのニーズは、ダブルからトリプルへ、そしてフォー・ネックへと行き着いた。
歴史の中ではレボルバー式の回転物も開発されたようだが、演奏中の持ち替えスピードの観点からフェンダー社で有名なダブル、トリプル、フォーネックが普及した。
ギターでもオープン・チューニングなど瞬時に持ち替えするため6弦のダブルネックという発想もある。
もちろん、スティール弦とガット弦、12弦と6弦など音色の変化を目的とする場合もある。
ギターとマンドリンやウクレレ、ベースといった異種の弦楽器の組み合わせも多い。
これらを一台のギターに搭載するには、小型の楽器が大きなボディに組み込まれることになる。
ここでは専門家の志茂さんの言葉が印象深い。
例えばアコースティックのウクレレとベースの場合、同じボディを介して共鳴するため予想外の共鳴音が出る。
従って「作ってみなければわからない、面白い音が出る」というわけだ。
そうした多弦ギターの極致が、パット・メセニーがカナダのリンダ・マンツァーに製作依頼した「Picasso」だろう。
「一台のギターに何本の弦が張れるだろうか?」というトライアルで始まったらしいこの作品は彼女の代表作だ。
先般志茂さんの近作、「Alani's Triple Neck」を拝見した。
ハワイで生まれたウクレレ、スラックキー・ギター、スティール・ギターの三種の楽器をソリッドボディに収めた傑作だ。
基本となるボディ・サイズを「テレキャスターのケースに入ること」としたという。
仕上げもビンテージのテレキャスターのよう、色むらのあるようなクリームホワイト系の薄いタッチの塗装。
全体に小ぶりで、驚くほど軽い。
ギターを上部に持ってきたのはデザインとバランスの両面で正解だ。
8弦スティールギターをギター達と同じ面位置にセットしたのはスティール・ギタリストならではの発想だ。
「膝の上で弾くラップ・スティール」スタイルを採用したらしい。
ギターはソリッドでありながらアコースティック出力をイメージした6弦。
ヘッドは、フェンダーを彷彿させなお「Shimo Guitars」を印象付ける形状。
センターの4弦ウクレレの収まりがいい。
弾きやすいことと、ソリッドなのにボディが共鳴している、
これはスティールの指板の下がホロー構造になっていることと密接な関係があるようだ。
スティールはフェンダー系のイメージを引き継ぎながら、ウッドのハワイアン・ギターを強烈に意識している。
いわゆるフェンダーの分厚いソリッド・ボディから出る低音弦の音色を実現しながら、オアフとかローカルなハワイアン・ギターを彷彿させる。
弦間隔にもスティール・ギターの達人ならではのリクエストが寄せられたようだ。
ピエゾによるアウトがそれぞれ独立しているのも志茂さんらしい。
細かいことを言えばギターとウクレレは、PAにつなげる前のイコライジングが異なる。
そしてスティールはミュージカルアンプを通した方がよりスティールらしい音を期待できることから、すべて独立した方がいいからだ。
立奏し、膝の上でも弾くという演奏スタイルからこのコンパクトさは、重宝するだろう。
このトリプルネックの出来は、志茂さんの弦楽器作りの集大成といってもいいかもしれない、それほど完成度が高い。
ビルダーは注文に応じて作るのだが、志茂さんは演奏スタイルやその人、音楽そのものまで研究し、それらを作品に反映している。
さらに経験に基づいたテクニカル・サポートを作品に込めるし、フォローもする。
ミュージシャンが頼りにしたくなるというものだ。
随分昔のこと「The Hawaiian Band」というマルチネック・ギターのアイデアをお持ちし、志茂さんにお手伝いしていただいた。
一旦完成したが、さらに改良の途上、早く完成して陽の目をみなければ。
「ものづくり」と「考えること」
「夢を実現する」ことが、ミュージシャンの夢だ。
1961 Gibson EBS 1250 Double Neck Guitar
Andy Manson, Led Zeppelin, John Paul Jones style triple neck at The Fellowship of Acoustics
Fusetar 'Lucifer' - custom 3 neck Guitar & Setar instrument - Shahab Tolouie
Buddy Merrill plays "South" on the Fender Steel Guitar
5. Pat Metheny - Into The Dream