長かった一人暮らし時代、定食屋さんはもちろんの事、ランチや夜食でお世話になったお店が懐かしい
毎日のように出汁に使ったカツオ節をざるで干していたそば屋さん、対角にあった手打ち讃岐うどんの頑固親父
映画カメラマンだった方の経営していた居酒屋も随分お世話になった
友人の実家の目の前にあった洋食屋さん「PONY」も懐かしい
鉄板を並べたお好み焼きやさんの提供するランチもご飯が美味しくて感心した
夜食でお世話になったお好み焼きやさんの経営者が東大卒と聞いて驚いた
上京してお好み焼きがビジネスとして展開されるようになったのは、広島風の分厚いお好み焼きだったような氣がする
キャベツが入って真ん中に卵を落としたり、間に焼きそばが挟まれたりと田舎者の常識は覆された
味覚の感覚は18歳くらいまでに形成されるという話を聞いたことがある
子供の頃食した味が忘れられないのはそれだけ多感な時期にインパクトが大きかったということになる
郷里の駄菓子屋の店先、いや傍の鉄板で提供されたお好み焼きは非常にローカルでチープなB級グルメだった
おそらく戦後の物資の乏しい時代に、日銭を稼ぐために考案されたレシピであったと思われる
郷里は大根が採れるので沢庵漬けは、個人宅でも行われるほど身近な食材だ
紅生姜も同様安価な食材だし、ネギは畑に行けば売るほどあったのだろう
つまり郷里のお好み焼きは、沢庵と紅生姜、ネギが入っていて、そこにキャベツは入らない
そして小麦粉は限りなく薄く溶いて、クレープに近い薄さのお好み焼きを実現する
そこにウスターソースを塗って、アオサとダシ粉をかける
折り曲げてカットしてさらにソースとアオサ、ダシ粉をまぶして経木に包む
これが「遠州焼き」と称される郷里のお好み焼き
薄く焼きあがった生地の中に、細かく切られた紅生姜、沢庵、ネギの存在を確認しつつ、ソースとアオサ、ダシ粉の味を楽しむ
私の通ったお店の焼きそばも、麺と具材をを鉄板で炒めるのだが、ソースは取り分けた皿の上でかけられた
ソースを絡めて炒める式ではないので、さっぱりした味を楽しめるのだが、単に鉄板の寿命を伸ばすための配慮だったかもしれない
B級グルメと言ってしまえばそれまでだが、こうした味を提供するお店が少ないのは寂しい
万人の支持を受けられなくとも、郷土を愛する人の味覚を楽しませてくれるお好み焼き
伝統をつなぐお店が欲しいものだ
Hapa performs Anjuli (from PBS special)