寒来光一の日替わり笑話

お笑い作家・寒来光一(さむらいこういち)が、毎日(たぶん?)、笑いのネタをお送りします。

ドア(笑ートエッセイ)

2007-10-15 00:52:54 | 笑ートエッセイ
 家の中のドアがこわれて、開かなくなった。台所と廊下を仕切る
ドアである。そのため、玄関から台所に行くためには、二つの部屋
を通らなければならない。およそ9歩の遠回りである。
 私の歩幅を70センチとすると、距離にして6・3メートル、1日
20往復したとすると、252メートル歩く計算になる。「それぐら
い何だ」と言われるかもしれないが、これを1年になおすと、何と
92キロにもなる。つまり、10年では920キロも余分に歩かなけ
ればならないことになるのだ。
 これは、北九州から静岡までの距離に匹敵するのである。いった
い何の因果で、静岡まで歩く旅に出なければならないのだろうか
(熱海温泉に入れるのなら、それもいいが)。
 いや、距離だけでの問題ならまだいい。問題は、時間である。
 私が、920キロの距離を瞬時に移動できるのなら、何も気にす
る必要はない。しかし、現実はそう甘くない。その距離を実際に歩
くには、200時間ほどを必要とするのだ。
 ただし、これは10年間だけの計算である。この家で、あと30年間
暮らすとすれば、何と600時間。つまり、25日間の人生を、家の
中をうろちょろすることに、奪われてしまうのである。ああ、何と
むなしい人生だろうか。こんな理不尽なことが許されていいのだろ
うか。いや、いいはずがない。
 かくして私は、決断し、立ち上がった。立ち上がって受話器を取
り、業者に電話した。
 翌日、業者はやって来て、ものの数分でドアを開けてくれた。そ
の結果、当然のことながら、台所と玄関をだれに妨げられることも
なく、自由に行き来することができるようになったのだ。
 こうして私は、人生の貴重な600時間を無駄にせずにすんだの
である。ただし、ドアがこわれてから修理を決断するまでに1時間、
さらに電話で依頼してから業者が修理を完了するまでに17時間、合
わせて18時間を費やした。したがって、この分を差し引くと、実質
的に582時間を失わずにすんだことになる。
 一方、このドアが再び使えることになったため、歩かなければな
らない距離がなくなったことは言うまでもない。しかし、見方を変
えれば、歩く機会という健康維持のための絶好の機会を失ったこと
にもなるのだ。
 開くようにドアを眺めながら、3回に1回は遠回りしてみようか
と、複雑な思いに駆られているところである。


  タイガースとホークス、残念ながら姿を消してしまいました。
  あ~あ……。 
コメント (2)
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