このところ毎月のように北朝鮮の弾道ミサイルが発射され、日本上空を通過したり、日本の排他的経済水域に着弾して、北朝鮮の脅威が声高に伝えられることが多いようです。でも冷静に分析してみると、僕は北朝鮮が日本を狙って核ミサイル攻撃をする可能性は、まずあり得ない、という結論に達しました。もちろん北朝鮮の核開発やミサイル実験は、国際社会から見ても断じて許されるものではなく、核実験そのものを直ちに止めるべく、強く求めていくべきであることは言うまでもありません。その上であえて僕は必要以上に北朝鮮の脅威を煽ったり、「Jアラート」など無意味な防衛策をとるのは、国民の不安やパニックを招くだけで、百害あって一利なしだと考えます。

とは言っても皆さんも不安でしょうから、その根拠を僕なりにまとめてみました。まず北朝鮮のリーダー金正恩氏の意図を正確に判断すること、そして北朝鮮を取り巻く国際社会がどういうパワーバランスになっているかを冷静に分析すると、意外にもシンプルな事実が見えてきます。

  • 北朝鮮が敵視しているのは、アメリカ合衆国一国だけである

北朝鮮と国交のある国は、中国やロシアくらいかと思っていたら、ヨーロッパを始め世界の164カ国もの多くの国々が、北朝鮮と国交を樹立しているのです。国連からは、核開発をはじめ人権問題などで、厳しく非難され制裁措置を受けていますが、北朝鮮の大使館自体は世界中で機能しています。隣接する中国、ロシアの二大国に至っては、むしろ北朝鮮を陰に日向にバックアップしていることは、国連安保理の制裁決議案が実質骨抜きにされていることからも、皆さんよくご存じの通りです。そもそも北朝鮮という国が生まれた理由は、第二次世界大戦後の朝鮮戦争で、共産主義勢力を代表してアメリカ合衆国と戦う、フロントラインと位置づけられたことに始まります。そのため終始一貫して北朝鮮のリーダーは、「アメリカ合衆国と対等な関係になった上で平和条約を結ぶ」ということを悲願としており、そのためにアメリカ本土に達するICBMに核弾頭を搭載するのだと、繰り返し主張しています。アメリカと連携するのなら日本を直接攻撃することもあり得る、というメッセージを発したこともありますが、それは極めて例外的だと言えます。

  • ミサイル実験は極めて慎重に、日本、在日米軍基地、米領諸島を避けている

北朝鮮としては、あくまで核ミサイルのアメリカ合衆国本土への着弾を目指しており、それを核抑止力とするのが目的なので、その目的を果たす前にアメリカ軍からの攻撃を受ける口実は作りたくないのです。米領であるハワイやグアム、ウェイク島などはもちろん、在日米軍基地を狙ったと判断されれば、米軍に恰好の反撃開始の正当性を与えてしまうので、それだけは避けたいというのが本音です。ましてや日本などに攻撃を加えて、それを理由にアメリカ軍に反撃の口実を与えてしまっては、元も子もありません。金正恩もそれくらいは慎重に考えています。北朝鮮より西方向には、中国、ロシアなどがあるのでミサイル発射実験ができず、東方向でもグアム島などに達してしまわないように、念入りにコースを選ぶとすると、必然的に津軽海峡上空を越えるコース以外は選択肢がありません。これは北朝鮮なりに、最も無難なコースを狙ったのだと考えるべきでしょう。日本を攻撃する意図があると言うよりは、むしろ日本を攻撃しないように最大限に気を遣っているのだと僕は思います。

  • 北朝鮮は自国の安全が保障されたと思わない限り、たとえ草を食べてでも核開発をやめないだろう

これは今年の9月5日に、ロシアのプーチン大統領が中国での講演にて述べた見解です。信じたくないけれど、僕にはこの怖ろしい予言が妙に説得力を持っているように感じられました。というのも現代史をちょっと振り返ってみてみると、今の北朝鮮によく似た歴史があるからです。昭和39年10月17日の毎日新聞記事によりますと、「中共、ついに核爆発」という大きな見出しの記事があります。まだ中国共産党が国連からも正式な中国政府として認められておらず、今のような豊かな国になる前の貧しい時代のことです。まさに草を食べるような状態で、中国共産党は核兵器を開発し、国際社会に強烈な衝撃が走りました。今でこそ国際社会の一員として正式に大きな勢力を振るっている中国ですが、当時の中国共産党は国連に認められた本国(中華民国=今の台湾)と対立する、反政府勢力であり、テロリストのような存在でした。それが核武装することができたのですから、北朝鮮が自分たちだって核武装すれば中国のように、と考えるのでしょう。ただし中国共産党が核兵器を持ったからといって日本を核攻撃してこなかったように、核兵器の保持イコール核攻撃という展開にはならないと思います。

  • 北朝鮮じゃなくても、核ミサイルは既に日本を狙っている

もっと極端なことを言えば、米ソ冷戦の時代から、日本はアメリカ合衆国の核の傘で守られているのだとすれば、当然在日米軍を好ましくないと思っている国々から、核ミサイルの照準を合わされているという可能性も考えなければなりません。それが発射されないのは、ひとたび核兵器が使われたら、双方ともに国ごと壊滅して地球が死の星になる、という共通認識があるからです。それが核の時代における国際安全保障の基本にあるわけで、両者ともに相手の頭に拳銃を突きつけあっている状態だとも言えます。チキンゲームではありますが、地球上から核が廃絶されるまでは、その状態は続くでしょう。このチキンゲームに北朝鮮が参加したからといって、いったい何が変わるのか、と言う気もします。パワーバランスに好ましくない動きは出るかも知れませんが、ICBM(大陸間弾道ミサイル)は地球を半周する代物ですから、距離は関係ありません。少なくとも北朝鮮に近いからという理由で、いきなり日本が狙われるということは心配しなくて良いと思います。北朝鮮が日本を攻撃したければ、通常ミサイルで原子力発電所を狙えば良いだけの話で、それはいつでもできますが、先にも述べた理由から今のところする気はなさそうです。

以上、北朝鮮に対する多くの論調とは異なる、うがった見方をしてみました。北朝鮮には核開発を直ちに止めさせるべく、国際社会と連携して「対話」と「圧力」の努力を強めていくことは当然の政策ですが、そのためには相手をよく知る、ということが不可欠です。金正恩という人物を、ただの頭のおかしい男、と捉えているようでは対話はかないません。頭のおかしい男どころか、カミソリの上を綱渡りするような外交バランスを選ぶ、一筋縄ではいかない人物であることを肝に銘ずるべきです。

その上で総合的な日本の外交、総合的な日本の国際安全保障、という観点からどういう選択肢があり得るのか。このままで本当に「対話」ができるのか、このままで本当に「圧力」は効果があるのか、そこまで踏み込んで議論をしていかなければならないと思います。北朝鮮のミサイル発射実験のたびに無闇に安全保障上の脅威と煽ったり、逆に迎撃ミサイルで守れるなどといった根拠のないアピールをしていては、国民はただ不安に陥るだけです。まずは正しい認識を持っていることを、しっかりと示すべきではないでしょうか。