とおいひのうた いまというひのうた

自分が感じてきたことを、順不同で、ああでもない、こうでもないと、かきつらねていきたいと思っている。

『ザ・ストーカー』春日武彦

2006年10月21日 09時25分13秒 | 読書感想
 正直言って、読んでいて気分のいい本ではない。著者のせいではなく、話題のせいです。

 個人的に知りたいことがあったので読み、収穫はあったのですが....書くほどのことではありません。

 春日さんは、原稿を頼まれ早朝に起きてこの本を書いたのだそうですが、朝からこんなくら~い話をいくら職業だからといっても、その書いている姿を思い浮かべるだけで気の毒になる。

 ストーカーとは何ぞやを巡り、正体をあばこうと、さまざまな角度から真っ向対決している春日さん。ストーカーのはっきりとしている特長は「執拗さ」。そして執拗な追求の果てに、なんのシナリオも持っていないことだそうです。完全に自己中心的で、お決まりの考え方は、自分は絶対に正しく、相手が100%悪く、そういう悪いやつは罰してやらねばならない、という思考をふむそうだ。

 最初は、むしろ感じのいい人で、自分の思いどおりにならないしゃくにさわることがおきたとたん、ストーカーは正体をあらわす。今までの親密さとは手のひらをかえしたような悪口雑言を浴びせ、相手を悪者に仕立てる物語を作り、自分は被害者と思い込みむので、相手をとことん罰するいやがらせの行動にでる。運が悪いと、その行動は常軌を逸した荒唐無稽なものになる。

 しかし、事例はさまざまで、有名人をねらったり、辟易として去っていこうとする恋愛相手、または単なる同僚、全然知らないのに勝手に「ひとめぼれの相手」にされた人等に、ストーカー行動をおこす。特徴は、自己中心的な未熟な人格と、その「執拗さ」。

 それは、たいがい人格障害の人たちであり、殺人にいたるような例はごく一部で、たいがいは、ふっと尻つぼみ様体で終わることが多いそうだ。なぜストーカー行動にでるかは、その人自身の人生の屈折した恨みつらみとか、ともかく自己中心的な思考のみが、空まわりする。

 大体、人格障害というのは、精神病、つまり病気ではないという。病気とは、ある病的な状態にかかり、その人本来の姿でなっていないものを、治療という形でその人本来の姿にもどせる一過性のバランスのくずれた状態を指し、だからこそ治療という行為が成立する。

 ところが、人格障害というのは、偏った人格のことだから、治療の範疇をこえている。というのは、この場合、人格を別人格にしなければならないからで、そんなことは医療の対象には本来ならない。しかし、ほっておくこともできず、これらの群れにやっと「人格障害」という命名をして、扱いやすくしたのだが、人に迷惑をかけず暮らしている分には、なんの異常さもなく、限りなく正常なので、まだ精神科医も困惑すること、分からないことが多い領域だとのこと。

 これからが、本当に言いたいことなのですが、事はそう一言でいえるようなイージーなことではないのに、ほんの一部にしかすぎない派手な事件がおきると、いっせいにマスコミが騒ぐ。そしてセンセーショナルにテレビ・新聞が報道し、あたかもこの世は派手な事件だらけのような不安・恐怖をかきたてる。そして表面的なうわすっべりの「通俗心理学」が横行する。

 本当に犠牲者の方はお気の毒だと思うし、「ストーカー」という言葉が認知され、悪者扱いされ攻撃される被害者のほうが誤解されたりしていたのが、理解されやすくなったのは、いいことだという。そのかわり一途な恋心を抱いて言い寄る人もストーカーにされたり、言葉が広まったばかりに濡れ衣をきせられて泣いている人もでてくるので、物事ってむずかしいですね。

 が、みんなが望むのは、そういう被害にあわない前に、「ストカー」を見分けたいということなのだが、春日さんの結論は、ムリであるということ。せいぜいで、危険を感じたら、孤立しないで周りの人に知らせておくなどという対処法しかないとのこと。

 注目を浴びている時には、週刊誌などで「ストーカーを見破る法」などというチェックリストなどが横行する。この本の読みどころは、そういった俗説がいかにどうしょうもないものかということか、いかに表面的でうわっつらだけをなでているものかを、知ることだと思います。

 春日さんが本当に率直な方だと思うのは、そういう週刊誌のチェックリストも丹念に検討し、普通はあまり出さないDSM-Ⅳ(アメリカ精神学会発行の精神科医の診断基準)の文章も公開しているところです。

 が、いかんせん、素人にも分かるようにと心をくだいた説明を読んでも、正直、理解できない部分が残る。そのはず、文章を読んだだけでは理解できず、症例を実際に経験してはじめて、文章の言っている意味がたちあがってくるものだからだと思います。

 都市の病理の一つとして、自分の中にもある暗部として、たまには、こんなくら~い話題に挑戦してみました。

 春日さんの精神科医としての経験によると、「こだわり・プライド・被害者意識」...この3つが人格障害から、神経症、総合失調症に至るさまざまな精神のトラブルの要因として作用しているのがほとんどであるそうだ。この3つこそ人間の弱点であり、そのすべてを体現しているのが「ストーカー」なのだから、我々としても彼らの姿はどこか心の奥で思い当たる部分がある。だから「ストーカー」を異界の住人として見過ごすわけにはいかない、とのこと。
正直、素人読者としては、まだよく理解していません。
   
 ただいま別の犯罪が主流になっているので、ストーカーはマスコミではあまり取り上げられません。調べていないので、減っているのか増えているのか分かりません。昔からあることのような気もします。

 が、エキスパートに望むことは、俗説を、専門知識の情報提供によって、正しい認識にかえてほしいということです。エキスパート同士でも意見がわかれるでしょうから勇気がいることだと思います。昼間の労働に加え、執筆はきついことだと思います。その意味で、春日さんの奮闘にエールを送りたい。
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