「勝手にしやがれ」などの作品でヌーベルバーグの旗手と言われたフランスの映画監督ジャンリュック・ゴダールさんが死去したと13日、現地メディアが伝えた。91歳だった。スイスで認められている「自殺幇助(ほうじょ)」により亡くなったという。
ヌーベルバーグ(新しい波)とは1960年ごろのフランスで起こった映画革新運動のこと。当時の名監督を強く批判した若い批評家たちが実際に映画を撮り始めたことで生まれた。ゴダールさんは60年、仲間のフランソワ・トリュフォーさんの原案で初の長編「勝手にしやがれ」を監督。セットから街へとカメラを持ち出し、若者の風俗や気分を活写した。その後の映画の撮り方やテーマを大きく変えた。
「小さな兵隊」「女と男のいる舗道」「軽蔑」など話題作を次々に発表。65年には、破滅へと疾走する男を描いた「気狂いピエロ」を公開。書物からの洪水のような引用や原色を使ったまばゆい色彩感覚で、ヌーベルバーグの頂点を極めた。
この頃から、世界が政治の季節に入っていくのと軌を一にして、政治への傾倒が顕著になる。商業映画と決別して、政治映画を製作するジガ・ベルトフ集団を結成。五月革命が燃えさかる68年にはカンヌ国際映画祭に乗り込み、開催中止に追い込んだ。
80年、カンヌに「勝手に逃げろ/人生」を出品して商業映画に復帰。83年には「カルメンという名の女」がベネチア国際映画祭で金獅子賞を受けた。90年代は「新ドイツ零年」「フォーエヴァー・モーツァルト」などを作る一方で、映画誕生以来の歩みをゴダール流に俯瞰(ふかん)する長尺のビデオ作品「映画史」の製作に費やした。
そして近年は映画作りの自由度がさらに増し、3Dを実験的に使った「さらば、愛の言葉よ」(14年)でカンヌの審査員賞を受けた。書物や音楽と映画をコラージュした「イメージの本」(18年)では、カンヌのスペシャル・パルムドールが贈られた。
AFP通信によると、妻で映画監督のアンヌマリー・ミエビルさんは、ゴダールさんが13日、スイス南西部の町ロールの自宅で、「近親者に囲まれて安らかになくなった」と明らかにした。公式のお別れ会などは行わず、遺体は火葬されるという。
AFP通信は関係者の話として、ゴダールさんは日常生活に支障をきたす病気を患っていたことから、自殺幇助による死を選んだと伝えている。スイスでは、自殺幇助で亡くなる人が増加傾向にあり、2003年の187人から15年には965人に増えているという。
マクロン大統領は同日午前、自身のツイッターで「ヌーベルバーグの中で最も革新的な映画人であり、現代的で自由な芸術を生み出した。私たちは国の宝である天才のまなざしを失った」とゴダールさんの死を悼んだ。
フランスのサイト「メディアパルト」の昨年12月のインタビューでは、ゴダールさんは政治に関心を示さず、最近の映画についても「おもしろみがなくて興味がない」と語っていた。
(ゴダール:画像はネットから借用)