とおいひのうた いまというひのうた

自分が感じてきたことを、順不同で、ああでもない、こうでもないと、かきつらねていきたいと思っている。

石垣りん氏の詩1編:『鬼の食事』

2016年11月01日 22時17分03秒 | 映像・画像・詩 そしてラインセンス

 

                『鬼の食事』

 

        泣いていた者も目をあげた。

        泣かないでいた者も目を据えた。

 

        ひらかれた扉の奥で

        火は

        矩(く)形にしなだれ落ちる

        一瞬の花火だった。

 

        行年四十三才

        男子。

   (母は行年92才  当然女子)

 

       お待たせいたしました、

       と言った。

   (おお 母の時も そう言われた)

 

       火の消えた暗闇の奥から

       おんぼうが出てきて

       火照る(ほてる)白い骨をひろげた。

    (おお 母の時も そうだった。あいつ、おんぼうと言うのか。うれしそうに きれいに焼けたとも言った)

 

       たしかにみんな、

       待っていたのだ。

 

      会葬者は物を食う手つきで

      箸を取り上げた。

 

      礼装していなければ

      恰好のつくことではなかった。

   (なるほど  なるほど  なるほど)  

   

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