フランスのエマニュエル・マクロン大統領は5日、新しい首相にベテラン保守政治家のミシェル・バルニエ氏(73)を任命した。マクロン大統領が実施を決めた7月の解散総選挙の結果、与党連合が大敗して新内閣を発足できなくなった一方、最大議席を獲得した左派連合「新人民戦線(NFP)」による組閣をマクロン氏は認めず、フランス政界では膠着(こうちゃく)状態が続いていた。
複数の政権で外相や農相など閣僚を歴任したバルニエ氏は、1958年に第五共和政が成立して以来、最年長の首相になった。欧州連合(EU)の欧州委員も務め、ブレグジット(イギリスのEU離脱)に際してはEU側の首席交渉官を務めた。このためフランスでは「ムッシュ・ブレグジット」として知られている。
中道右派・共和党のバルニエ氏は首相就任にあたり、フランスが「深刻な時」を迎えるなか、自分は謙虚に職責にあたると約束。「すべての政治勢力を尊重し、傾聴する必要がある」として、「この国のあらゆる都市や農村部に見受けられる怒りや、自分たちは見捨てられた、不当だという感覚」に数日中に応えると述べた。
新首相は、フランスが直面する財政や環境面での課題について、国民に真実を語ると約束し、「誠実に取り組む」すべての当事者と協調して国民の団結を図るとも表明した。
バルニエ氏は首相として、2025年度の予算案を10月1日までに国民議会に提出しなくてはならない。
大統領府は、バルニエ氏を任命したことでマクロン大統領は、新首相と政府が最大限の安定と最も幅広い団結を実現できることになると説明。国をひとつにまとめて「国とフランス国民に仕える」政府を築く使命を、大統領は首相に託したのだと大統領府は強調した。
最大勢力の不満
マクロン大統領が実施を決めた7月の総選挙の結果、国民議会(下院、議席数577)はNFPが193議席、マクロン大統領の与党連合は166議席、「国民連合」(RN)は142議席と、どの会派も単独で過半数を得られていない。
このためバルニエ首相の第一の課題は、安定政権を築くことになる。しかし、中道左派の社会党はすでに不信任案の提出を計画している。
マクロン氏は複数の首相候補を検討していたものの、就任直後に予想された不信任決議案を乗り越えられることが必須条件とされた。
マクロン大統領は8月末、左派連合NFPは国民議会で信任を得られないとして、NFPが擁立した首相候補を拒否。NFP内の最大会派「不服従のフランス(LFI)」を率いるジャン=リュック・メランション代表は、「選挙がフランス国民から盗まれた」と反発。7月7日の総選挙で最多議席を得たNFPから首相が出るのではなく、「一番少なかった政党」、つまり共和党から首相が出ることになってしまったと不満をあらわにした。
メランション氏は、「これはもはやマクロン=ル・ペン政府だ」と、極右RN党首の名前を大統領と並べて批判。バルニエ首相の不信任に賛成するよう、広く呼びかけた。
RNのマリーヌ・ル・ペン党首はバルニエ政権に参加するつもりはないと表明しているが、「様々な政治勢力を尊重する」というバルニエ氏の約束はRNの基本的な要求に見合うものだと述べた。