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ちひろBLUESこと熊谷千尋のブログです。

武正晴監督最新作、中井貴一&佐々木蔵之介ダブル主演『嘘八百』を観て来ました。

2018-02-24 22:33:55 | Weblog


2/22(木)、イオンシネマ新潟西で『嘘八百』を観て来ました。



ひとまず予告編はこんな感じです。





僕がこの映画を観たいと思った一番の理由は、武正晴監督の最新作だったからです。
武正晴監督の映画だと、僕はやっぱり2015年に観た『百円の恋』が本当に大好きだし、昨年に観た『リングサイド・ストーリー』も面白かったので、かなり今後に期待していた映画監督でした。
『百円の恋』は、安藤サクラさん演じる元ニートの女性が恋にボクシングに奮闘する物語であり、『リングサイド・ストーリー』は瑛太さん演じる売れない俳優で、佐藤江梨子さん演じる彼女のヒモと化している男性がひょんなことから本物のボクシングに挑戦するという物語です。
どちらも、ダメな人達がダメな人間なりにカッコ悪くても精一杯生きる姿、何かに挑戦する姿、そしてボロボロになってもそれでも生きていく姿を描いていて、すごく感動する映画です。
また、そんな胸を打つ物語を、あくまでコミカルに表現しているところも、好きなところです。
そんな武正晴監督の最新作が、なんとシネコンで、中井貴一さんと佐々木蔵之介さんという豪華な二人のダブル主演で上映されるということで、これはちゃんと観ておきたいと思ったわけです。

どんな物語かと言うと、中井貴一さん演じる売れない古物商と、佐々木蔵之介さん演じる売れない陶芸家が、偽物の茶器を作って一発逆転の大儲けをしてやろうと企画するというコメディです。
まず、中井貴一さん演じる売れない古物商が、とある蔵に眠っていた幻の茶器を発見し、持ち主を出し抜いて買い取って大儲けしてやろうとするものの、実はその持ち主に騙され、大損をしてしまいます。
彼を出し抜いた人物こそ、佐々木蔵之介演じる陶芸家であり、そのことに気付いた古物商は、居所を突き詰めます。
しかし、彼もまた本業の陶芸家の方がまったく上手くいっておらず、そういうイカサマ商売に手を染めていたのであった…
最初は騙し騙され合う関係だった二人であったが、徐々にそれぞれが古物商、陶芸家という道に誇りを持って生きていたはずが、仕事も家族も上手くいかずに生きている似たもの同士であることを知り、少しずつ謎の友情が芽生えていく…
そして、二人の力が合わさればきっと大儲け出来るはずだ!と、古物商、陶芸家がが力を合わせて「幻の利休の茶器」をでっち上げ、それを高額で売ってしまおうと企画するのであった…
…とまあ、こんな感じの物語です。

まず、中井貴一さん演じる古物商と、佐々木蔵之介さん演じる陶芸家の二人が、基本的にこの世の中で上手く生きていけていないダメな人間でありながら、そんなダメ人間を愛すべき存在として描いているところが、すごく武正晴監督らしいなと思いました。
しかも、今まで観て来た『百円の恋』『リングサイド・ストーリー』ではいわゆるダメな若者を描いてきたのに対し、今作では妻子のいる中年男性の哀愁を描いていたあたりは、ちょっと新鮮でした。
また、『百円の恋』では安藤サクラさんと新井博文さん、『リングサイド・ストーリー』では瑛太さんと佐藤江梨子さんが、それぞれカップルとして登場していて、どちらのカップルもまったく上手くいっていないダメなカップルなんですけど、何だかんだ最後にはお互いを必要とし合っている、という部分が魅力的でした。
それを踏まえてこの映画を観ると、そのダメな人達が何だかんだ最後は支え合う感動、みたいなものが、カップルではなく中井貴一さんと佐々木蔵之介さんのダブル主演の中で表現されていたのかなって感じがしました。
さらに、武正晴監督の映画の面白さというと、個性豊かな脇役が挙げられるのですが、この映画でも主演の二人の騙し騙され合いの中で、もう本当に一癖も二癖もあるような怪しい人物たちが次から次へと登場してくるあたりは、本当に面白かったです。
しかも、そんな人物達が、色々と揉めながらも最終的には主演の二人の味方となって協力していくあたりは、少年漫画的な燃えるシーンでした。
そんなストーリーが、非常にテンポよくコミカルに展開していくので、まあ、基本的には誰でも楽しめる面白い映画だったと思います。

じゃあ、そんな映画の感動ポイントはどこかと言うと、やっぱり僕は武正晴監督の真髄であるところの「ダメな人間がダメな人間なりに精一杯生きる姿」にあると思うのです。
佐々木蔵之介さんが土から茶器を作り上げていく様子は、それまでのコミカルでテンポのいい映画の流れとは異なり、そこだけ非常に時間をかけて丁寧に描かれていて、また佐々木蔵之介さんの熱演も素晴らしく、まるで熱が伝わってくるようで、思わず見入ってしまいました。
そこから、その茶器を中井貴一さんが売り込んでいく様子は、上手く騙せるか…?バレないか…?と非常にハラハラするシーンになっていました。
この一連のシーンは、先程も書いたように、色々な登場人物たちが次から次へと現れては二人に協力してくれるシーンでもあり、思わず主演の二人を応援したくなってしまうという、この映画の中で最も魅力的なシーンでした。
やっぱり、武正晴監督は、思わず応援したくなってしまうような魅力なダメな人間たちの奮闘を描くのが本当に上手いなあと思います。
特にこの映画に関して言えば、偽物の利休の茶器を本物かのように作り上げ売り込んでいくという下りには、ダメな人間たちがダメ人間なりに「本物」になろうと奮闘するという意味合いが込められていたように感じられます。
言ってしまえばこの映画は「詐欺師」たちの物語であるにも関わらず、感動してしまうのは、そういう理由があるからではないかなあと思います。

そんな感じで、基本的には非常に楽しめた映画だったんですけど、贅沢を言わせてもらえばちょっと物足りなさもありました。
と言うのも、『百円の恋』や『リングサイド・ストーリー』では、主人公たちが本当に泥臭くて情けなくてカッコ悪い、本当に何もかもがダメな落ちぶれた人物として描かれていて、そんな人間たちが何とか奮闘するところに感動があったわけですが、この『嘘八百』は、そういう泥臭さがちょっと物足りないのです。
それが、主演の中井貴一さんと佐々木蔵之介さんがカッコ良すぎるせいなのか、シネコンでの上映に合わせて幅広い世代が見やすいようなすっきりとして作品を意識したせいなのか分かりませんが、あの本当に心の底から湧きあがるような感動がなかったのは、武正晴監督のファンとしてはやっぱりちょっと物足りなかったです。
何というか、『百円の恋』『リングサイド・ストーリー』にあった「ああ、俺のために作られた映画だ!」という感動がなかったのです。
だからまあ、今の日本映画の中では十分面白い方の映画だとは思いましたけど、大傑作かと言われたら、正直僕の中ではそこまでではなかったです。
という訳で、面白いか面白くないかと言われたら、幅広い世代がちゃんと楽しめる面白い映画だと思うので見て欲しい気持ちはもちろんあるのですが、もしこの映画を観て面白かった方は、よかったら武正晴監督の過去の映画も見て欲しいなあと思います。
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