8/27(木)、8/28(金)の2日間、りゅーとぴあの劇場で、Nosim0+Noism1+Noism2 実験舞踊 vol.2「The Rite of Spring 春の祭典/FratresⅢ」プレビュー公演が開催されました。
今回のこの公演は、もともと4月に予定していた公園が新型コロナウイルスの影響で延期になったものが、感染予防対策をした上で8月に上演が実現したものでした。
やはりNoismのメンバーにとってもファンの人達にとっても念願の上演ということで、チケットは完売。
僕はもともとチケットは買えなかったんですけど、たまたま行けなくなったという友人からチケットを譲ってもらえて行くことができました。
正直、この時期に劇場には…という気持ちも微妙にありつつも縁あって観に行ったわけですが、劇場の人達の消毒とか体温測定とか感染予防対策がしっかりしていて、ここまでしてもらったんだから…!って気持ちで結果的にいつもよりも集中してしっかり堪能できました。
そういうこともあったし、公演の内容も素晴らしくて、すごくいい体験ができました。
全公演が終了したので、ネタバレ込みで感想を書いていこうと思います。
1:「Adagio Assai」
井関佐和子さんと山田勇気さんが向かい合って立っている。最初は立っているだけなんだけど、よく見ていると、1人が前傾するともう1人が後ずさる、1人が右手を前に出すともう1人が左手を後ろに引く、みたいな感じで、2人の動きが呼応し合うような形で静かに2人の体が動き出す。それがまるで、2人がお互いの距離を図っているように見えて、ソーシャルディスタンスという単語が頭に浮かぶ。そんな2人の動きが次第に大きくなり、やがてダンスになっていく。日常の中にある人間の動きもダンスになりうるという、ダンスに対するNoismの気持ちが表れているのかもしれない。2人がダンスをしていると、ところどころで2人の動きをそのまま切り取ったような写真が後ろのスクリーンに映る。それを完璧に合わせるダンスの技術が凄いのは言うまでもなく、映像とダンスのコラボによって、動と静、時間と瞬間という、線と点という、それぞれの良さを比較しながら芸術表現の在り方に迫っているような面白さがあった。
2:「Fratres Ⅲ」
金森穣さんが登場し、スポットライトの小さな光の中だけで踊る。金森さんのダンスは何故かどこか苦しそうに見える。すると、後ろから11人のダンサーさんが登場するのだが、その11人も全員がスポットライトの小さな光の中だけで踊っている。広いステージなのに、全員がスポットライトの光の中から出ないあたりに、やっぱり窮屈な感じがする。このご時世に見ると、ステイホームで家から出られない人の窮屈さを思い出す。そう考えると、後ろの11人はまったく同じ動きをしていて、ところどころ祈っているような動きもしていたりして、それも日本人の同調圧力の表現のように見えてくる。そう考えると、金森さんのダンスもますます苦しそうに見えてくる。そして、最終的にダンサーさん達の頭上から大量の白い砂のようなものが降ってくる。しかし、それでも彼らは反応せずに踊り続ける。それもまた、成すすべもない人間の無力さ、それでも変わらず生きようとする生命力を表現しているようにも見えてくる。
3:実験舞踊 vol.2「春の祭典」
舞台上に横一列に21脚の椅子が並んでいるところに、静かに一人ずつダンサーさんが現れる。最初は全員がお互いを警戒し合うように、他の人と距離を取り合うようにして座っていくんだけど、最終的には21人が登場して全部の椅子に人が座ることになるので、空席もなく、全員が気まずそうに下を向いている。もう、この時点で、今年の新型コロナウイルスの時代になってから例えば電車の中やベンチなどの日常生活の中で、ものすごく見慣れた光景だということに気付く。すると音楽に合わせて全員が踊りだすのだが、まるで全員が何かに怯えているように見える。そのうち、ステージの周りの壁のようなスクリーンが上に上がって、椅子から立って舞台上を広く使って踊りだすんだけど、そこもまた、恐る恐る舞台に出て行く感じになっていて、それも自粛期間に外出する時みたいな気持ちを思い出す。そう考えると意味深に見える動きがすごくあって、例えばダンサーさん達が2組のグループに分かれて(多分、男女に分かれて)それぞれ踊りだすところは、世の中の分断みたいに思えてくるし、ところどころで1人だけ周りと違う動きをしている人を他のダンサーさん達が取り囲むところは、日本人の人と違う人が叩かれたりネットリンチされるみたいな同調圧力を表現しているように思えてくる。そして、一番最後に客席の照明がついて、ダンサーさん達が客席を観て一斉に驚いたような顔をしたところは、まるでそういう問題は自分達も他人事ではないのだという現実を突き付けられたようですごくはっとさせられた。
そんな感じで感想を書いてきましたが、今回のこの公演、そもそも新型コロナウイルスの影響で延期になったものであり、さらに客席を半分にしたりマスクや消毒や検温などの対応をした上で上映が実現したものだったこともあり、どうしても意味深に思えてしまう公演でした。
そういう意味でも、Noismはものすごく攻めてるというか、現実の問題に芸術で向き合っている団体なんだろうなと思ったし、こういう素晴らしい団体が新型コロナウイルスの影響で活動に制限が出てしまうのは切ないけど、なんとか今後も頑張って続けてほしいなと思いました。
なんとなく、観に行く前に白山神社の鳥居越しに月の写真を撮ってみたのですが、
観終わった後に、今度はりゅーとぴあの空中庭園から見えた月の写真を撮って帰ってきました。