
田辺聖子「ジョゼと虎と魚たち」
2003年の実写映画と現在上映中のアニメ映画で2回も映画化した表題作をはじめ、年齢も生き方も様々な男女の人間模様を描いた9話の短編集。
映画を見てから気になって読んでみたんだけど、口語で書かれた文章はどれも読みやすく、それでいて短い文章の中で人間の深い部分まで踏み込んで繊細な心境を切り取った物語はどれも読み応えがありました。
7年ぶりに再会した元恋人との微妙な会話「お茶が熱くてのめません」、妹が先に結婚した未婚の姉の「うすうす知ってた」で、こういう気持ち分かるなーって読んでいたら、次の「恋の棺」は両親を失った29歳の女性が血の繋がらない姉の19歳の息子と山荘で恋に落ちる話でびっくりしました。
かと思えば、夫との仲が冷えきった女性が仕事先でユーモラスな年下の男性と恋をする「それだけのこと」、夫を前妻の一家に振り回されながらいつまでも恋人のような夫婦を続ける「荷造りはもうすませて」、妊娠した夫の浮気相手に戸惑いながら離婚した夫と最後の食事をする「いけどられて」など、大人の恋愛が続き…
そこで表題作の「ジョゼと虎と魚たち」になるんだけど、この本の中で多分一番誰もがストレートに共感できる爽やかな感動作なので、映画化されるのも分かるなあと思いました。
人が誰かを好きになってしまうあの感じ(エロ描写が爽やかだけど生々しくて良い)、幸せの中の一抹の不安などを見事に表現していた傑作短編小説でした。
その後は。仕事で会えない恋人を別荘で待ち続けて彼の甥と恋に落ちる「男たちはマフィンが嫌い」、40代になっても男を求める女性が50代の恋人と京都の山奥で密かに逢う「雪のふるまで」と、地味にセレブ感のある大人の恋愛が続いていきます。
全体的に大人の女性の欲望を繊細かつ生々しく描いた攻めた短編集だなあという印象でしたね。
ちなみに、実写映画の「ジョゼと虎と魚たち」の感想はこんな感じでした。
「2003年の実写映画「ジョゼと虎と魚たち」、アニメ映画化の前に見てみました。」
そして、アニメ映画の「ジョゼと虎と魚たち」の感想はこんな感じでした。
「田辺聖子さんの短編恋愛小説を新たな解釈でアニメ化「ジョゼと虎と魚たち」観てきました。」