羊日記

大石次郎のさすらい雑記 #このブログはコメントできません

アルスラーン戦記 1

2015-05-27 21:59:48 | 日記
「楽士殿は王太子殿下の御所在を御存知か?」薄着のファランギースはギーヴに問うた。「いや、存じ上げません」「そうか、ではさらば」ファランギースはさっさと馬を進めた。「いやいや! あなたがお探しであれば力をお貸しすることもできよう」ギーヴは慌てて馬を出し、ファランギースを追った。「なぜアルスラーン殿下をお探しで?」「私の神殿はアルスラーン殿下御誕生の際、殿下の御名を持って寄進されておる。故に殿下の御身に事有る時は、武芸に優れ者がお助けせよと、先代のカーヒーナ(神官)長の遺言なされているのじゃ。そこで私が選ばれたのじゃが、どうせ厄介払いであろう」間近でファランギースの肢体を吟味していたが話は聞いていたギーヴは問い返した。
「なぜ?」「私のような美しくて、学問にも武芸にも練達した才女は同僚に妬まれるのでな」「なるほど」手綱を軽く打って馬を駆けさせるファランギース。ギーヴも続いた。「この際、故人の遺言を実行させるという名目で、私を神殿から追い出した訳じゃ。って、お主、なぜ付いてくる?」「いやいや、構わず話を続けてくれ。不本意な任務なら打ち捨てて、俺と自由な旅を」「いや、任務と関係無く、ルシタニア人の信仰の押し付けは私は好かぬ。彼等をパルスから追い出したい」林を抜け、夕闇の平原に出た。ファランギース達の馬は加速し、かなり早く走り出していた。
「同感だ。ごもっとも、その通り! 奴等のやり方は例える並ば、髪は黄金色、目は青、肌は雪白の女のみを美女と崇める。それ以外は認めぬという、そういうやり方だ。美しいと思う、貴重と感じるも人それぞれで、強要されるものでは無いはず。ひいてはこの私をどうかお供に! 聞いておられますかファランギース殿? ファランギース殿ぉッ!」ペラペラ喋るギーヴを、ファランギースは馬の足を速めて引き離しに掛かった!
     2に続く

アルスラーン戦記 2

2015-05-27 21:54:55 | 日記
夜になり、森に入ったファランギースは馬を止め、片手で摘まめる程度の首から下げた小さな笛を口に含んで吹いた。音は鳴らない。(笛? 何も聴こえぬが?)まだ付いてきていたギーヴは訝しんだ。「そうか」ファランギースは一人で納得すると再び馬を進めた。「ジン(精霊)が言うにはお主がルシタニアを嫌う心には偽りが無いそうじゃ」「俺にはさっぱりわからん」「そうであろう、赤ん坊には人の声は聞こえても、言葉の意味はわからぬ。お主もそれと同じじゃ。風の音は聞こえるが、それに乗るジンの囁きは到底理解できまい」「なるほど、俺は赤ん坊か」「言葉通りとおもったか? お主のような邪気の多い赤ん坊がおるか」「いずれにしても俺の正義を認めてもらえた訳だから、同行を許してもらえないだろうか?」「好きにするがよい。ただ、私同様、アルスラーン殿下に忠誠を誓うならだ」「俺の忠誠心は余り量が無いので、ファランギース殿だけで手一杯だ」「私にはお主の忠誠心等必要無い」「そういう言い方はつれない」ファランギースはまた馬を駆けさせた。追うギーヴ。
「ファランギース殿と俺の仲てはないか?」「どんな仲じゃ」と言い合っていると、多数の騎兵の足音が近付いてくる! ファランギースとギーヴは馬を止め、森の中に息を潜めた。「パルス兵?」「ではないな。あれは裏切り者のマルズバーン(万騎長)カーラーンの軍だ。相手にしない方がいい」カーラーン隊は森の道を走り去って行った。「あの者達の内にアルスラーン殿下の御所在を知っている者がいるかもしれぬな。付いて行ってみるか」なし崩しで、ファランギースはギーヴを供にカーラーン隊の追跡を始めた!
後、カーラーン隊の野営地にアルスラーン一向に荷物運びとして雇われたが、荷物をくすねて叩きのめされたというボロボロの風体の、目付きの悪い男が出頭してきた。
     3に続く

アルスラーン戦記 3

2015-05-27 21:54:48 | 日記
「王子の一向は何人だ?」カーラーンが問うと、「たった四人でさぁ」「嘘をつくなぁッ! その百倍はいるだろう!!」男の回答に連れてきた兵が怒鳴った。「本当です。しかもその内二人は子供で、だから俺を荷物持ちに雇ったんです」「で、王子はどちらの方角へ行った」カーラーンは天幕の中央の卓に広げられた地図に向かった。「南ですさぁ! カーラーン様が王子を探していると聞いて、体引き摺ってここまで来たんだ! なぁ、これって褒美もらえる情報だろ? な? な? なんか、くれるよな?」「このッ」周囲の兵を苛立たせる荷物持ちだった男。「うむ、よかろう」カーラーンは剣の一振りで男の首を落とした。「痴れ者めッ。その手に乗るか!」カーラーンは一喝した。
「この男、ナルサスの手先だ。この体の傷も我等を信じ込ませる為の奇系であろう。この男、南へ行ったと言ったな」ここで、一人の兵が報せに来た。「カーラーン様、旅の者達がアルスラーン一党らしき者を見たと言っています。皆、口を揃えて北へ向かったと」「やはり! 北の山岳地帯を抜ければ、ナルサスの旧領ダイラムへ至る道が有る」駒差し棒? で地図を差すカーラーン。「東のペシャワール城にはキシュワードとバフマンがいる! 出るぞ! 全軍北へ!!」カーラーンは号令を出し、隊は夜の闇の中、北の山岳地帯へ出立した!
程なく、カーラーン隊は松明を手に、山の谷道を細長く隊列を組んで進んでいた。ナルサスは一人、高所からそれを見ていた。(私の裏をかいたつもりで、なんの疑いも無くこの山岳地帯に誘い込めれた。カーラーン、なまじ頭の切れる者程、卓の上で踊ってくれる)と後ろの茂みから覆面で顔を隠し、しかし薄着の女が斬り掛かって来た! ナルサスの髪を掠める! ガチィーンッ! 抜き打ちのナルサスの剣が女、ファランギースの二ノ太刀とかち合い、
     4に続く

アルスラーン戦記 4

2015-05-27 21:54:41 | 日記
火花を散らした!!「ルシタニア兵ではないのか?」「カーラーンの部下てはないのか? 何者だ? 俺はアルスラーン殿下に仕えるナルサス」「ハッ、失礼した」ファランギースは片刃の小剣を腰の鞘に納めた。「私はファランギース、ミスラ神に仕える」覆面を下ろし顔を出すファランギース。ナルサスも剣を納めた。「アルスラーン殿下にお力したく参上した。ずっと、カーラーン公の部隊を付けて参ったのじゃ」「ほお、殿下の味方を。よし、早速協力してもらおう」「私を疑わないのか?」「お主がカーラーン党派やルシタニア側だったら、今頃大声を上げて俺の所在を知らせるだろう」でも剣のかち合う音は大丈夫!「これから裏切り者のカーラーンを捕らえ、アルスラーン殿下の元へ連れてゆく。人手が増えるのはありがたい」「今、殿下にお仕えしているのは何人か?」「俺と俺の隷下、それに天下無双の騎士一人、お主等を入れて5人になった」振り向くファランギース。木の陰に隠れていたギーヴが顔を出した。
アルスラーンとエラムも別の高所から谷底を進むカーラーン隊を見ていた。「カーラーンの隊が来ます」「ナルサスの策が嵌まったということか」「カーラーンは自分の予想が裏付けられたと、なんの疑いもなくここへやってきます。不利な地形にね!」「いよいよカーラーンと」「不安ですか?」「不安でないと言えば嘘になる。だが、やらねばならぬ!」強い目のアルスラーン。エラムはその顔を厳しく見定めていたが、「殿下、剣1本では心許ないでしょう、名工の作ではありませんが」エラムは背負っていた小弓と矢の入った矢箱を差し出した。「良き弓です、これをお使い下さい」「私がこれを使ったら、エラムの武器が無くなってしまう」「私の事はお構い無く。この弓は私の代わりに殿下を御守りするのです。御武運を!」(ありがとう、エラム!)アルスラーンは矢箱を受け取った。
     5に続く

アルスラーン戦記 5

2015-05-27 21:54:32 | 日記
カーラーン隊の一部が足を止めた。谷の崖上にかがり火が焚かれ、その側に馬に乗った者がいる。アルスラーンだ!「いたぞ! 崖の上!!」兵から声が上がり、カーラーンも気付いた。「カーラーン! 私ならここだ! これ以上、罪の無い人を殺める事を見過ごす訳にはいかぬ!!」「アルスラーン!!」唸るカーラーン!「殺せ! 奴の首には金貨十万枚が賭かっているぞ!!」「オオッ!!!」配下の士官が鼓舞すると、兵達はいきり立ち、崖を登り出した!!
アルスラーンはかがり火を谷に蹴り落とした。カーラーン隊兵はこれを払ったが、アルスラーンが暗闇から放つ矢は防ぎ切れなかった! 矢で射られ、次々崖から落とされてゆくカーラーン隊兵! それでも馬で駆け上がって来た兵は、エラムが馬の足目掛けて紐の両端に石を括り付けた狩猟具を投げ付け、落として行った!「崖の上はどうなっている?」「松明をもっとよこせ!!」「敵は何人いるんだ?」混乱する崖下。そこへ馬に乗ったナルサスが闇に紛れ斬り掛かり、即駆け去って行った!
事態が把握できず動揺するカーラーン隊!「一度指揮の乱れた騎馬隊程、脆いものは無い」ナルサスは呟いた。混乱したカーラーン隊にファランギースは高所の林から矢を放ち、馬でその場を素早く去った。「林の伏兵!」益々混乱するカーラーン隊! 馬に曲乗りし、馬のみ走り込んで来たかのように見せたギーヴが馬上に姿を現し、カーラーン隊を次々斬り払った!「ルシタニアの馬装?!」騒然となる中、ギーヴは馬で駆けて来たナルサスと落ち合った。「やるな!」「この程度!」ナルサスとギーヴは斬り込みと離脱を繰り返し、カーラーン隊を撹乱した!「どこだ?」「囲まれているのか?」「敵は何人だ?」カーラーン隊の混乱は全軍に拡がっていた!
頃合いを見ていたエラムは事前に梃子に棒を入れておいた
     6に続く