羊日記

大石次郎のさすらい雑記 #このブログはコメントできません

うしおととら 1

2015-09-05 21:47:12 | 日記
「紫暮めぇっ」獣の槍の回収失敗を聞き、上僧達が口惜しがっていると和羅が現れた。「怒りを迷いを生むぞ?」「帰られたのですか僧正様」畏まる上僧達。「私の留守中にことを起こしたらしいな」「申し訳ありませんっ」「獣の槍を守り操る者を育てる、それが光覇明宗の教え。四人の伝承候補者を育ててきたお前達が、蒼月潮を認めたくないのはわかる。だが、お役目はお怒りだ」お役目様は怒ってもよいのであるッ!「察しておられる」『あの槍は持つ者を選ぶと言います。槍を持つ以上、潮少年は選ばれたのやもしれないのです。和羅、槍を手に入れるのは宿縁、それに手出しは無用です』お役目様は和羅に厳命していた。「光覇明宗は蒼月潮を伝承候補者として監視することにした! 行動を共にする『とら』という妖怪も、処分は止めおく、よいな!!」「ははぁっ」和羅は僧達に申し伝えた。
当の潮ととらは夜中に山奥のとある温泉に来ていた。「はぁ、いい湯だなぁ」「どこに温泉に入って鼻唄唄う妖怪がいるんだよっ」呆れる潮。二人は鎌鼬達に傷によいと教わり湯治に来ていた。とらの腕はすっかりくっついていた。と、とらが疲れてるから喰わん、槍どけろバカと指図し出し、「めんどくさいなぁっ」潮は両手を湯の中で合わせで水鉄砲をとらに当ててやった。「それ、どんな術だよ?」「知らねぇの? こうやってやるんだよ」聞かれて潮がとらに水鉄砲のやり方を教えていると、湯煙の向こうから歌声が聴こえてきた。
「誰だろう? 綺麗な声」潮は温泉を泳いで歌声の方へ向かった。「あっ」白髪の少女が湯に浸かり、歌を歌っていた。(髪が雪みたいに真っ白だ)潮は赤面してみとれた。「おう、旨そうな人間だな」とらも来て、来たついでに軽く湯に沈められる潮。「何だよ、お前っ!」怒って声を出す潮! 少女は気が付き、タオルで裸身を隠して立ち上がった。
     2に続く

うしおととら 2

2015-09-05 21:47:02 | 日記
「んはっはぁッ! えぇ、ちょっ、あの、俺っ、ごめん」大慌ての潮、とらはこちらを『見ている』少女を見ていた。「ごめん、なさい」白髪の少女は温泉を出て、駆け去って行った。「ああっ?! これじゃ俺、覗き魔じゃねぇかぁ!!」温泉であたふたする潮。「あの人間、普通じゃねぇぞ」「ええ?」とらの言葉に潮は戸惑った。
白髪の少女はフードを被り、白髪を隠した格好で麓の町の屋敷に戻ってきた。「遅いぞ、小夜!」「ごめんなさい、お父様」「湯は、効きそうじゃったか?」「はい、お婆様」待ち構えていた父と祖母に答える小夜。「仕事だ」「はい」小夜は父に促され、屋敷の奥へ向かった。「一年の半分を床で過ごすようなお前にもちゃあんと仕事があるんじゃからなぁ、感謝せぇよぉ?」「お前みたいな役立たずが外の世界に出ればすぐに野垂れ死にだ、肝に命じておけっ!」「はい」随分な言われようにも従順な小夜。
奥の間の襖を開けると、護符の張り巡らされた部屋だった。「さ、慰めておくれ、我が家の神を」祖母に言われ、護符の部屋に入ってゆく小夜。小夜は何でも無いように護符をくぐり抜け、立ち止まると後ろで襖は閉じられ、灯りは入らなくなった。護符の向こうには部屋が際限無く続いているように見える。そこから毬が一つ転がってきた。赤い和服の細い目の童女がいた。「ご機嫌いかがですか? オマモリサマ」座って毬を拾う小夜。「今日は何をして遊びますか? 蹴鞠ですか?」オマモリサマは音も無く、駆けてきて、小夜の服の袖を掴んだ。「お外へ出たい」両手で袖を掴んだオマモリサマの手を取る小夜。「申し訳ありません、外へ出ることは」オマモリサマは小夜の匂いを嗅いだ。「知らない人間と化け物の匂いがする」驚いて手を引っ込める小夜。「もしかしたら、その者達がおらや小夜をここから出してくれるかもしれん」オマモリサマは呟いた。
     3に続く

うしおととら 3

2015-09-05 21:46:51 | 日記
「う~ん」「何やってんだ?」潮はとらを頭に乗せ、遠野町の地図を見ていた。「ここらをあちこち回ってみたくなってさぁ。ほら、これ何か面白ぇなぁ、座敷わらしだってよぉ!」デフォルメされた可愛い妖怪の描かれた観光ガイドをとらに渡す潮。「フンッ、興味無ぇなぁ」投げ捨てていると「おおっ?!」潮が声を出し、「どうした?!」構えてとらが振り返ると、道の先にフードを被った小夜がふらふらと歩いていた。「何だ、昨日の旨そうな娘か」ふらつく小夜は車道によろめき、走ってきた車に跳ねられそうになった! クラクションが鳴る!! 潮は素早く飛び付き、小夜を受け止めて逆側の歩道に着地した!「おいっ、大丈夫か?!」間近で見ていた煙草屋の中年女も驚いた。「やっぱり鷹取さん家の小夜さんだ」「鷹取?」「あれ」小高い所にある大屋敷を示す煙草屋。「大地主さんさ」潮は気を失った小夜を背負い、送ることにした。
屋敷へと続くガードレールに乗って見ているとら。「たくよぉっ、おめぇは何でいつもこう面倒ごとに顔突っ込むんだよぉ?」「仕方ねぇだろ?」「ごめんなさい」気が付いた小夜。「私、またやっちゃったんだわ。時々気が遠くなるの」「あのぉ、ですね、昨日はごめん! 覗くつもり無かったんだ」「ごめんなさい」「え?」「驚いちゃって、ごめんなさい」「謝ること何て無いよっ、俺が謝ってんだよ」「ごめんなさい、もう大丈夫だから降ろして」「ああ」小夜を降ろす潮。「私、ちょうどあなたを探して、うっ」またよろめく小夜を潮は支えた。「ほらっ、気を付けて!」「ごめんなさい」「また言う、ダメだよぉ? そんな簡単に謝りまくっちゃよぉ」「んんっ」ここで不意にとらが小夜の目の前に迫ると小夜は驚いて後ずさった。舌打ちするとら。「やっぱりか」「見えるのか? とらが」潮も軽く驚いた。「私は普通の人が見える妖の世界を見、
     4に続く

うしおととら 4

2015-09-05 21:46:39 | 日記
その声を聞く、白い髪の血筋の者」深刻顔の小夜に、潮は笑顔を見せ、また背負い直した。「俺は蒼月潮!」坂道を駆け上がる潮。「コイツはバカだけど、妖怪のとら!」「バカは余計じゃ!」とらも飛んでついてくる。「もういいんです、降ろしてっ」「いいや! まだふらついてるぞぉっ! こんなの軽い軽い! はははっ!」潮は笑った。「私は小夜」小夜も微笑んで名乗った。
屋敷では結構な腕前で据え物斬りをする小夜の父が部下から土地の買収計画を聞き、(オマモリサマを祀る限り、鷹取家は栄続ける!)と悦に入っていたが、小夜が潮に連れられてきたことを聞かされた。すぐ帰るつもりだった潮は話があると言われ、文句を言うとらをうるさがりながら小夜から話を聞こうとしていた。「こんなこと、不自然で失礼なお願い何ですけど」小夜が何か言い出そうとすると、父と祖母が部屋に入ってきた。
「小夜! 迷惑な話だなぁっ、私の立場も考えろ! お前が倒れて運び込まれる度、地元の評判が悪くなる!」「ごめんなさい、でも今日は気分もよかったし、お天気も」「病気のお前が外に出る必要など無い!」「お前の母のように早死にして、わしらに迷惑を掛けるつもりか?」父と祖母に攻められる小夜。「黙って聞いてりゃおめぇらっ、好きで病気のやつがいるかよ! 母ちゃんのことまでっ」怒り出す潮!「何だこのガキは?」「連れてきたどこぞの坊主じゃ」「フンッ、小遣いでも貰って失せればいいものを、恩を着せて集るつもりか?!」「バカにするなっ、帰ってやらぁッ!」潮は槍を取って帰ろうとしたが、小夜がその手を掴んだ。「待って! お父様、一時間、いいえ30分でもいいからお話しさせて!」少し小夜の顔を見て、「30分だぞ?」と父は部屋を出てゆこうとしたが、ふと潮の持つ布で包まれた槍を認めた。「それは何だ?!」「何だっていいだろっ」
     5に続く

うしおととら 5

2015-09-05 21:46:29 | 日記
父は鼻で笑い、潮を警戒する祖母と共に去った。「ホントむかつくぜ!」「ごめんなさい」「ああっ、謝るなよぉ」「ごめ、はい」「で、話って?」小夜は屋敷の『奥』へとらを頭に乗せた潮を案内し出した。「私の血筋は病弱で、母は幼い頃亡くなりました。母は優しくて、とても綺麗な人でした」『小夜、この世には、人間に何かを伝えたいのに、伝えることのできない妖怪がたくさんいるのよ? 人間と妖怪の橋渡しをして、仲良くさせてあげるのが、私達の役目。白い髪はその証。だからこの白い髪も、全然恥ずかしく何かないのよ』泣いてすがる幼い小夜に、病床の母は微笑んでそう言って聞かせた。「でも、現実は違った。母はこの家の財産を守る為の道具だった。私は母と父が笑い合ってるのはおろか、喋っているのも見たことがありません。母はこの家に閉じ込められ、死んでゆきました。病弱な私を連れ、家を出たとしても生きる為のお金を得ることができないと考えたのでしょう」潮は険しい表情で小夜の話を聞き、屋敷の奥へ奥へと招かれて行った。
「蒼月君、知ってる?」「え?」「それが住み着く所富有り、権勢有り、それ去る家、災いと貧困が訪れる」「それって」「昔ね、力有る神様を閉じ込めることに成功した家があったの。その力有る神様がオマモリサマ」小夜は『奥の間』の前まで潮を連れてきた。「それをお慰めするのが私、白い髪の女。でも、オマモリサマの本当の名前は」襖を開け、護符の間の向こうの童女を見せる小夜。「座敷わらし様」護符をくぐり抜け、座敷わらしの元へゆく小夜。「連れてきてくれたんだな」「天が、引き逢わせて下さいました」「そうか、永かった」座敷わらしの傍に座る小夜。「こりゃ、相当強力な結界だぜ? 首の毛がチリチリすらぁ」護符を見るとら。「この時がお主の立ち合いの元で行われようとはな、長飛び丸」
     6に続く