羊日記

大石次郎のさすらい雑記 #このブログはコメントできません

恋仲 1

2015-09-16 22:34:47 | 日記
「ちょっと待て! こっちの方が早いぞッ! 葵!」コンクール会場から走って行こうとする葵を追ってきた公平が呼び止め、タクシーに乗るよう促した。乗り込む葵。「お前、金有るのか?」公平に問われるが、財布を持ってなかった葵。聞いた公平もロクに持ち合わせてなかったので一緒に追って来た七海が札を出した。「ちゃんと返してよ」「ありがとう。東京駅までお願いします」タクシーが出ると、公平と七海は「頑張れぇ!」「頑張れぇッ!」と応援して見送っていた。
富山に着いたあかりは漁港を通り、かつて実家の造船所が有った場所を訪れていた。「行ってきまーすっ」ちょうど、浴衣を来た子供達が出てゆくところだった。「余り遅くならないでねぇ」母親らしい人が出てきた。造船所の建物は仏壇屋になっていた。「何か?」「あ、いえ、大丈夫です」母親と目が合い話し掛けられると、あかりはそそくさとその場を去った。それから高校へ向かったあかりは廃校になったことを知った。人気の無い敷地へ入り、閉ざされた校舎には入れなかったが昔を思い浮かべるあかり。学校近くの並木道を歩いて去ろうとしたが一度、振り返った。
橋で翔太があかりを待っていると、「来ると思ってたよ」葵が現れた。「あかりに会いに来た」「葵?」あかりも橋まで来ていた。翔太を真っ直ぐ見る葵。「あかりと話がしたいんだ。花火が始まるまででいい、時間くれないか?」葵を見る翔太は軽く笑みを浮かべた。「俺もさぁ、この辺久し振りだから少し回りたいと思ってたんだ」翔太は自分から立ち去っていった。
「あんなとこにカフェできたんだね」あかりは葵と街の川辺を歩いていた。「富山に新幹線が通る何て思ってなかったよね?」「ああ、東京って凄い遠い所だと思っていた」「あたしも、7年も経つとさぁ、色々変わっちゃうだね」川を見るあかり。「家に行ったの。
     2に続く

恋仲 2

2015-09-16 22:34:37 | 日記
全然違うお店になってて、知らない人が住んでて。高校もさ、廃校になってて商店街もたっくさんシャッターが下りてた。あと7年経ったら、また今とは全然違う景色になっちゃうだろうな」葵から少し離れるあかり。「今考えてることとか、こうして感じてることも、いつか、変わっちゃうんじゃないかって。そう思うと、ちょっと怖いかも」
「そりゃ変わるよ。景色も、人の気持ちも、でも変わってもいいんじゃねぇの? 俺の気持ちだって、今この瞬間も! どんどん変わってる。俺さ、あかりが初恋だったって言ったじゃん?」「うん」「でも今はもう、あの時の気持ちとは違うんだ」あかりを見る葵。「7年前より、あかりのこと好きになってる。10年後はもっと、20年後はもっともっと好きになってる。俺は、翔太みたいには将来のこと何か、約束できない。けど、あかりを思う気持ちは誰にも負けない。俺も、あかりと一緒に花火が見たい。同じ気持ちなら、来てほしい。あの場所で待ってる」葵は去って行き、あかりはその背を見送っていた。
翔太は高校の頃よく語った海の傍の石段に座っていた。葵が来た。「ありがとう。あかりに告白してきた。もし答えてくれるなら、一緒に花火見ようって言ってある。俺、翔太には敵わねぇって思ってた。聞いたよな? あかりのこと幸せにする自信有るのかって? そんな覚悟無かった。正直言って今でもねぇよ。けど、俺もあかりじゃないとダメなんだ、もう二度と失いたくない」「俺もだよ」顔を見合せ、笑う二人。葵は手を差し伸べ、二人は握手した。
日が落ちて、東京の葵のマンションの屋上では公平が七海と花火をしていた。「もうすぐ始まるねぇ」「そうだねぇ」「前から聞こうと思ってたんだけどさぁ、公平はどっちを応援してるの?」「決まってんじゃん、どっちもだよ」公平は線香花火を見ていた。
     3に続く

恋仲 3

2015-09-16 22:34:26 | 日記
花火大会開始のアナウンスが流れる中、あかりはその場に向かい、葵と翔太はそれぞれ待っていた。「あかり」あかりは翔太の元へ現れた。「翔太」花火が上がり始めていた。
翌年の夏、建築事務所で新人のデスクをどこに入れるか葵達が話し、冴木が仕事を一つ取ってきていると「三浦く~ん、デザイン変えたから。明日までに直しといて」丹羽が仕事を任せてきて、葵は戸惑った。「あの、明日は」「あっ! そうか、富山か」「すいません」「じゃあ、あたしがやります」富永がフォローに入った。
病院の翔太の元へ心音から手紙が届いた。見舞いに来た同級生の男子との写真も添えてある。沢田も写真を見ていた。「心音ちゃん嬉しそう」だが、まだ外出はできないという。「明日も来たがってたんだけどなぁ」翔太は写真を見ながら呟いた。
その夜、「へいお待ち、チャーシューおまけしといたから」「いいのぉ?」あかりは葵とラーメンの屋台に来ていた。「つーかさぁ、こんな日に何でラーメン?」「一人で家に居ても、落ち着かないんだもん」「付き合わされるこっちの身にもなれよ」満足そうにラーメンを食べるあかり。「新郎新婦って、披露宴で殆ど食べれないんだって。いっぱい食べとかないとお腹空いちゃうよ」「食い過ぎて腹壊しても知らねぇからな。あ、すいません、半炒飯下さい」「半炒飯? 葵こそ、お腹壊さないでよねぇ! スピーチ何だから」半炒飯が出てきた。「あざーすっ」ラーメンをすする葵。「しょっぺぇ」ブラックラーメンではないが、しょっぱかったらしい葵だった。
食後、二人で歩く葵とあかり、「ホントはちょっとさみしかったんだよね。普通今日みたいな日って家族と過ごすものでしょ? 今までありがとうございました! とか言ってさぁ」「さみしく何てないだろう。明日から、家族できるんだから」
     4に続く

恋仲 4

2015-09-16 22:34:14 | 日記
「そうだけど」「マリッジブルー? 似合わねぇ! マリッジブルーってキャラかよ?」「うるさいっ」笑って葵の尻を蹴るあかり。「何だよ、元気じゃん」「何か言った?」「別に。じゃあ俺」「うん」「葵」「ん?」「今まで、ありがとうございました」軽く頭を下げるあかり。「俺も、今までありがとう」「じゃあ、明日ね」「うん、また明日」「バイバイ、葵」二人は笑って別れた。
翌日、結婚式会場で、七海は会場のあかりの生徒の子供達の書いた色紙や、これまでの写真等を見て微笑んでいた。新郎は遅刻していたが、「アオイさん到着しました!」式場のスタッフが、控え室のウェディングドレスのあかりに伝えにきた。立ち上がって新郎を迎えるあかり。
チャペルには建築事務所メンバーや冴木、高梨、七海、公平、その他関係者が多数集まっていた。チャペルの扉が開き拍手の中、あかりと葵が入ってきた。会場に翔太の姿は無かった。
「三浦君、あんな格好よかったっけ? 惜しいことしたなぁ」拍手しつつ、富永がボヤいたりもしていた。「遅刻すんなって言ったのに」「しょうがねぇだろ? 駅のトイレでいい感じに波が」「うるさいっ! 今言わないでよっ」笑顔をキープして祭壇までゆっくり歩きつつ、揉める二人。「お前が始めたんだろ?」「だから食べ過ぎるなって言ったのにっ」「ラーメン屋何て誘うなよっ」「半炒飯食べんのが悪いんだしょお?」反論すると、笑顔キープが崩れるあかり。「大事な時に限って失敗するんだからっ」「うるせぇ」散々揉めたが、二人は一礼し、葵は神父が差し出した指輪を取ると、あかりの左手の薬指に填めた。
昨年の花火大会の夜、かつてあかりと別れた堤防で葵が花火を見上げていると、あかりが遅れて現れた。「葵」「あかり」隣へ来たあかり。「綺麗だね」「ああ」あかりは隣に座った。「遅くなって、ごめんね。
     5に続く

恋仲 5

2015-09-16 22:33:50 | 日記
翔太に自分の気持ち伝えてきた。私ね、葵のコンクールの発表見て、思ったの。あの家に、いつか住みたいな、って。葵と一緒に」あかりを見る葵。「この気持ちがいつか変わっちゃうんじゃないかって、不安になっちゃうんだけどさ。葵に言われて気付いた。私も、7年前より、今の方がずーっと、葵が好き。大好き!」笑ってしまう葵。「きっとどんどん好きになっちゃうんだろうなって。葵はさ、将来の約束何てできないって言ったけど、私はすごく自然に想像できたよ。葵のあの家で、おはようとおやすみを繰り返して、朝は、ハムの入った卵焼き食べて、ああでもケンカはいっぱいするよ? その分、いっぱい仲直りして、ああやっぱり葵のことが好きだなぁって、思いながら一緒に暮らすの。100年だって続くよ?」二人は笑い合った。
あかりの手を取る葵。「来年も、一緒に花火見よう。その次の年も、その次も、100年後も。ここで待ち合わせしよう」葵はあかりにキスをした。笑ってしまうあかり。「葵」「うん?」あかりの方からキスをした。「お返し」二人で笑う葵とあかり。改めて顔を見合せると、二人はもう一度キスをした。現在の式場でも二人は誓いのキスをして、笑い合い、拍手で祝福されていた。
披露宴は、「思い返せば私と新郎新婦は」と緊張した面持ちの紋付き袴の公平が進行していたが、形式はアットホームなスタイルで、新郎新婦はソファに腰掛けていた。葵がスピーチを読む段になると、葵はメモを失くしたことを気付き慌てた。「ポケットはっ?」あかりも慌てるが、「新郎より、御礼の御挨拶があります」と公平に振られ、やむを得ずマイクの前に立つ葵。「本日はお忙しい中」冒頭は型通りに無難に挨拶する葵。少し詰まったが、「葵」とあかりに小声で励まされ、ジェスチャーで思った通り話すよう促され、葵は話し出した。
     6に続く