紀元二千六百年奉祝
東京音樂學校
關西大音樂會
昭和十五年十一月 廿九日 午後七時 於大阪 朝日會館
三十日 午後一時
三十日 午後七時
十二月 一日 午後七時 於京都 朝日會館
主催 朝日新聞社會事業團
國歌『君が代』奉奏 管絃樂演奏
一、宮城遙拝
二、黙禱
紀元二千六百年奉祝演奏曲目
一、管絃樂 指揮 橋本國彦
紀元二千六百年記念 建國祭本部制定
「交響曲・二調」 橋本國彦作曲
第一樂章 「莊嚴調」
第二樂章 「輕快調」
第三樂章 「紀元節祝日歌による主題と獨奏及遁走曲」
- (休憩) -
二、合唱・獨唱・管絃樂 指揮 木下保
日本文化中央聯盟主催、皇紀二千六百年奉祝藝能祭制定
交聲曲「海道東征」 北原白秋作詩
信時潔 作曲
一、高千穂 男聲獨唱並合唱
二、大和思慕 女聲(獨唱並合唱)
三、御船出 男聲女聲(獨唱並合唱)
四、御船謠 男聲獨唱並合唱
五、速吸と菟狹 男聲獨唱、女聲合唱(童ぶり)合唱
六、海道回顧 男聲女聲(交互に唱和並合唱)
七、白肩の津上陸 男聲(獨唱並合唱)
八、天業恢弘 男聲女聲(獨唱斉唱並合唱)
獨唱 ソプラノ 山内秀子、淺倉春子
アルト 進藤梅子、千葉靜子
テノール 柴田陸陸
バリトン 藤井典明
バス 中山悌一、栗本正
- (休憩) -
三、管絃樂 指揮 橋本國彦
日本文化中央聯盟主催、皇紀二千六百年奉祝藝能祭制定
音詩「神風」 山田耕筰作曲
管絃樂 東京音樂學校管絃樂部
合唱 東京音樂學校生徒
曲目解説
「神風」の曲に添へて
これは神風の擬音的描寫ではない。蓋し擬音は眞の音樂とはなり得ないからだそれ故私は「神風」を一つの音詩とし、神風の外的描寫を粗にし、その内なるものをより密に表現しやうと努めた。
試みに眼を蒙古襲來の當時に向けやう。それは日本にとって正に累卵の危機であったに相違ない。しかもあの有史以來の國難は誠に明快に克服されてゐる。時の宰相、青年、相模太郎の勇断によって。しかし私は思ふ、よしあの時、百の相模太郎ありとしても、もしわが國民が、神と共に耕し、神と共に唱ひ、神と共に生きんとする浄心の持主でなかったとしたならばどうであったらう?
或は神風もその奇蹟を示さなかったであらう。幸にも日本國民は、いみじくもその心の所有者であり、神人一如の精神に生きてゐたのだ。そして、この精神こそは實に世界無比のものであり、またわが國獨自の尊い精神でもあるのだ。
今こそ吾々は儚き「知」への執着を斷ち、潔く叡智の世界に進み、神人一如の生活を行することによって、單なる考察の段階より、感悟の高堂に上り、いとも崇き創造の人たるべく、必死の努力をいたすべきである。この光輝ある二千六百年をその正しき歩みの第一線として‥‥‥敢えて記して作者の言葉とする。
(山田耕筰)
交響曲 海道東征
第一章 高千穂
天地初發の時、天の御中主の神二柱産巢日の神が高天原に成りました。次いで下界が生れ出た時、伊邪那岐・伊邪那美二柱の御神が天の瓊鋒を以て海水をかき廻して、大八洲の國土を形作された。そこで天照大神の御裔が高千穂の峰に天降られ、御榮えになってゐたが、やがて御東征の時は迫ってきたと、事實も言葉も古事記上巻によって志實に荘重に歌ひ出してゐる。(男聲獨唱並に合唱)
第二章 大和思慕
皇軍進發の前奏曲。大和の自然の美しさと、大和への思慕の情とを、日本武尊の國思の御歌の言葉を借りて、優しく歌ってゐる。(女聲獨唱並に合唱)
第三章 御船出
その一は日向國の美美津御出帆の曙の大業成就を豫言するやうな、平和で美しい情景、その二は、皇威凛々として御出帆の時の情景、その三は海路の靜かに凪いだ情景を歌って早く出でませと感激にあふれつゝ歌ふ歓呼の聲。
第四章 御船謠
いよゝ艦隊の行進。その一はやがて神武天皇となり給ふべき總帥神倭磐余彦命を讃へ申す歌。その二以下は、命を上にいたゞいて、次第にたかまる全軍の意気の高揚を、船謠の形で歌ってゐる。(男聲獨唱並に合唱)
第五章 速吸と菟狹
速吸の瀨戸に來られると、國つ神珍彦が龜の甲に乗て参り、水先案内をつとめ奉って、稿根津日子と名を賜った古事記・日本書紀の傳へをそのまゝその一に歌ってゐる「宇佐まで進まれると、宇佐津彦が足一騰宮を作って、お迎へ申したいといふ古事記の傳へをその二に歌ってゐる。(男聲合唱並童聲或は女聲合唱)
第六章 海道回顧
既に吉備の國高島の宮に八年間、全軍準備成って、まさに一路難波へ進まれやうとする時、全軍の人々遙か來し方を顧みて、九州から瀬戸内海を東へと辿った行程を歌ふ。三節に分れてゐる。(男聲女聲交互唱並に合唱))
第七章 白肩の津上陸
難波御着船、青雲の白肩の津にお着きになると、長髄彦が逆らひ奉るので、楯を並べてひた押しに敵前上陸を遊ばされよって其處を今も日下の蓼津と言ってゐるとの、古事記の傳へをそのまゝに歌ってある。二節に分れてゐる。(男聲獨唱並に合唱)
第八章 天業恢弘
三種神器の御神徳の讃歌。大和國の山河の讃歌。そして日嗣の御子の御稜威の讃嘆。そして八紘一宇の大業を實現あそばさる爲に、いざ大和の國へと、全軍意気に燃へて歓呼の裡に曲は終る。(男聲女聲)(以上風卷景四郎〔風卷景次郎?〕解説)
この交聲曲の所要時間は一時間である。
交響曲 ニ調
作曲者はこの記念曲に二ヶ年の歳月を費し、努力を重ねて日本人の手になった眞に日本的交響曲の最初の大作を完成したのである。
建國の精神、悠久の國風、躍動の日本、文化の精華等この一大交響曲の内容として遺憾なく表現され、しかもその表現に我國古來の音樂文化の諸相即ち雅樂調を、民謠調を、謠曲調を、長唄調を巧に編み、しかも模倣の域を遙に脱して、西洋音樂を十二分に會得した作曲者橋本教授が正に紀元二千六百年にして初めて意義深い新大作を完成したものといふべきである。交響曲・二調とあって長短兩調のいづれにも指定されないのは(D)が基音であるといふ意味で雅樂調の壹越に當るものである。演奏所要時間は三樂章全曲で五十分である。
第一樂章 「莊嚴調」
第二樂章 「輕快調」
第三樂章 (終曲)「紀元節祝日歌による主題と獨奏及遁走曲」
第一樂章は弱音器付き絃樂の導入によって開始され、之に續く主要主題(此の主題は交響曲全曲に一元的に用ひられる)はニ・ホ・イの三音から成る。副主題は陰旋法による謠曲風のものである。
主題提示と展開は幻想的に表示された自由な奏鳴曲(ソナタ)形式により終りは導入部を逆の順に現はして消える樣に結ばれる。第二樂章は三部分形式により各樂器を獨奏的交代によって始まり、主題は切分音(シンコーペ)的のもので、之に與へられた低音は第一樂章の主要主題である。中間部は速度が倍になり俚謡風の旋律が骨子となってゐる。
第三樂章は「紀元節祝日歌」の旋律を主題として、八つの變奏と遁走曲(フーゲ)から成る。遁走曲は先づ別個の副作動機による主題と對位によって開始され第一樂章の主要主題が次いで加はり、迫奏(ストレッタ)を經て後、初めて「紀元節祝日歌」の旋律が合流して嚴格な四重遁走曲となり、やがてトラムペットによる主題強奏によって最高潮に達し、第一樂章の主要主題によって終結する。