大正の末ごろ、小石川林町に「アルス」という名の出版社がありました。
代表者は北原鉄雄、詩人・北原白秋の実弟でした。
彼は、兄・白秋のよき協力者でありました。
白秋の著作の発行を一手に引き受け、その創作活動を支えたのです。
白秋が、日本の子どもたちにささげたたくさんの童謡がここ「アルス」社から珠玉のような詩画集となって次々と世に出されました。
「トンボの眼玉」「兎の電報」「まざあ・ぐうす」「花咲爺さん」「二重虹」「象の子」・・・と。
そのひとつ、大正十四年に出された「子供の村」には、清水良雄の美しい絵にかざられて、次のような詩がのせられていました。
子 供 の 村
子どもの村は子どもでつくろ。
合唱「みんなでつくろ。」
赤屋根、小屋根、ちらちらさせて。
合唱「みんなで住まうよ。」
子どもの村は垣根なぞよそよ。
合唱「ほんとによそよ。」
草花、野菜、あっちこっち植えて。
合唱「すず風、小風。」
子どもの村は子どもできめよ。
合唱「みんなできめよ。」
村長さんを一人、みんなで選び。
合唱「みんなで代わろ。」
子どもの村は早起きばかり。
合唱「鶏(こけこっこ)と起きて。」
朝の中(うち)、御本(ごほん)。お午(ひる)から外へ。
合唱「はたらいて歌はう。」
子どもの村は子どもで護ろ。
合唱「みんなで守ろ。」
てんでの仕事、てんでにわけて。
合唱「みんなで励まう。」
子どもの村は仲よし小よし。
合唱「喧嘩(いさかひ)せずに。」
てんでに助け、てんでに仕へ。
合唱「楽しんで遊ぼう。」
子どもの村はお伽の村よ。
合唱「お夢の里よ。」
星の夜、話。月の夜、お笛。
合唱「すやすや眠よよ。」
子どもの村はいつでも子ども。
合唱「いつでも春よ。」
子どもの祭、おてんとさんの神輿(みこし)。
合唱「わっしょ、わっしょ、わっしょな。」
(「郷土教育 712号」より)
-中村 光夫-