ゆっくり行きましょう

気ままに生活してるシニアの残日録

劇団文化座公演167「紙の旗」を観劇

2024年10月31日 | 演劇

劇団文化座公演167「紙の旗」を観劇した、場所は文化座アトリエ田端、午後2時開演、3時50分終演、途中休憩なし、この日は千秋楽、150人程度収容する小さなアトリエ、座席は満席に見えた、来ているのは中高年が圧倒的だった、チケット販売や誘導などをしている劇団スタッフは若い人が多く、演劇を目指す若い人が多いのかと頼もしく思った、どの職業でも若い人が集まってこない仕事は発展しないでしょう

劇団文化座(代表:佐々木愛)は戦時下の1942年2月、井上正夫演劇道場のメンバーであった演出家の佐々木隆、女優の鈴木光枝らによって結成され、同年4月第1回公演梅本重信作「武蔵野」で旗揚げした劇団

この日にもらったプログラムの佐々木代表のあいさつによれば、この日の演目の「紙の旗」は、私達の日常生活に点在する本の小さな選択と意志が描かれているとのこと、我々の日ごろの生活における小さな選択と小さな意志がいまほど大切に思われる時はない気がしている、としている

「紙の旗」の作/演出は内藤裕子氏

内藤裕子氏は埼玉県生まれの劇作家、演出家で演劇集団円(えん)所属、2014年演劇集団円『初萩ノ花』(作・演出)にて読売演劇大賞作品賞受賞、2022年演劇集団円『ソハ、福ノ倚ルトコロ』(作・演出)にて紀伊國屋演劇賞個人賞受賞、2023年エーシーオー沖縄・名取事務所共同制作『カタブイ、1972』(作・演出)にて第10回ハヤカワ「悲劇喜劇」賞、第26回鶴屋南北戯曲賞受賞

キャスト

鈴木和則(共立党)・・・津田二朗
岡野義明(民自党議員)・・・青木和宣
斉藤康彦(民自党議員)・・・鳴海宏明
駒井 茂(議会事務局長)・・・沖永正志
矢島博信(無所属・改新クラブ)・・・藤原章寛
宮崎いく子(公友党議員)・・・瀧澤まどか
相田 透(みらい市民フォーラム)・・・井田雄大
星野伸一(議会事務局職員)・・・早苗翔太郎
神谷あやね(議会事務局職員)・・・若林築未
石川陽子(みらい市民フォーラム)・・・深沢 樹
萩原智子(記者)・・・神﨑七重

あらすじは、

ある地方議会でのこと、新人女性議員が育児休暇について「だから私たち若い世代が言わなきゃオッサン議員たちは気がつかない」とブログに書いたところ、議会は大紛糾、政治に対する諦めや、無力感が覆う空気の中で、その事に抗い、何かを良くしようと奮闘する人々の悲喜交々のある一日の物語

あらすじの補足や、観劇した感想などを述べてみたい

  • 結論から言えば、大変面白かったし、いい演劇だと思った、内藤裕子氏の作品や演出は大したものだと思った
  • やはり演劇は大きな劇場で見るよりもアングラ劇場的な小さな劇場で、俳優と近い位置で見るのが一番だと思った、俳優の声の出し方などが自然であり、演技っぽくないところが良かった
  • 昨年読んだ福田恒存氏の「演劇入門」によれば(その時のブログはこちら)、劇が映画と本質的に異なるところは舞台と観客席との交流ということである、舞台においては役者は終始、観客の緊張度に支配されている、聴き手が熱心に聴いてくれなければ、張り合いぬけがして、話し続ける気をなくしてしまうが、聴き手が身を乗り出し、相槌を打って話し手と無言の対話をすれば、役者はそれに力づけられ、それに反応し自分の演技に酔うことができる、と述べている、こうなるためには舞台と客席は近くないといけないと思った、この日はまさにそんな感じの役者と観客の無言の対話ができていたように感じた
  • 場面転換が何回かあったが、いずれもマンボのような楽しい音楽が流れ、椅子や机などの舞台道具を動かす音や俳優の足音を消しておりうまいと思った
  • あらすじにある通り、ある市議会において女性議員の育児休暇の是非について議論になり、議会与党の代表が「育児を替われる人はいるが議員は代替がきかないことをよく考えるべきだと」と発言し、事実上育児休暇を認めない決定をしたことに憤りを感じた若手女性議員が自身のブログに「議員のオッサンたちは育児の重要性がわかっていない」と書いたから大騒動になり、議会各党の代表者会議が開かれて、その女性議員を呼び出して議論が喧々諤々されるのがこの物語である
  • 呼び出された女性議員は、議会の各党の偉い人たちから、事実誤認があるとか、先輩議員に対するリスペクトがないとか、謝罪してブログを削除せよとか言われるが、毅然として拒否するから、話はどんどんこじれていく・・・
  • 代表者会議は議長と各党代表5名の6名、休暇の是非について議論するが、与党と革新クラブ代表の矢島議員が県議会議員への立候補を認めるというエサを与えられ反対し、その他の野党が賛成する、その議論はなかなか面白かった
  • その代表者会議に、事務方の3名と傍聴の記者が絡み、さらに劇を面白くしていた
  • この演劇は、議会与党や年長者議員の旧態依然とした実態を批判的に描く、という単純なものでもない、プログラム・ノートに書かれた内藤氏の解説を読むと、氏は祖父が市議会議員、祖母が選挙運動をやっていたので、議員と実際に会って話を聞き、議会を傍聴し、議会の仕事の面白さや議員の人たちが真面目に仕事をしているのに気付き、この演目を作ろうと決心したと書いてある
  • そして、若手女性議員の育児休暇の可否は市政にとって必ずしも重大な問題ではないが、与野党・ベテランと若手が自分の意見を臆することなく主張して衝突しながらも、お互いの意見を知り、自身の至らないところを認識し、少しでも前進することの大切さを学んでいく、そういうことを言いたかったのかな、と感じた
  • この日演じた俳優たちはいずれも良い演技をしていた、若手から中堅、ベテランに至るまで、それぞれの役柄をしっかりと演じていたと思う、大したものだと感心した

良い演劇でした

この日は観劇後、駒込の駅まで歩いたが、まだ時間が早かったので、駅の反対側のある商店街を歩いてみた、昭和のムードが残る個人商店中心の商店街であり、良いところだと思った