田中秀臣(上武大学ビジネス情報学部教授)
日本経済の景気減速が顕著になる中で、10月に予定されている消費税率10%への引き上げに対する懸念が増している。他方で「消費増税応援団」の活動も活発化してきている。
その中で最大の主役の一人、日本銀行の黒田東彦(はるひこ)総裁の消費増税「応援発言」がまたもや出てきた。日銀の岩田規久男前副総裁「告発の書」といえる『日銀日記』(筑摩書房)には、メインテーマとして前回2014年の消費増税の「主犯」黒田総裁への批判が取り上げられている。
これは14年の8%増税の実施前に、内閣府が13年に開催した消費増税の集中点検会合で、黒田総裁が「どえらいリスク」と発言した有名なエピソードに基づくものだ。消費増税を行うかどうかの重要なタイミングで、消費増税を先送りした場合の金利急騰を「どえらいことになって対応できないというリスク」だと指摘したのである。
要するに、黒田総裁は消費増税を先送りすると、国債が暴落し、財政危機が生じるという見方を披露したのである。この「どえらいリスク」論は、当時の政治的な文脈において相当な影響を及ぼした。
なぜなら、2013年はアベノミクスの効果が、日銀の大胆な金融緩和により、その効果がてきめんに表れていた時期だったからだ。つまり、アベノミクスの骨格を担う中心人物の「警鐘」が、安倍晋三首相の増税判断にも大きな影響を与えたと思われる。
当時、マスコミと経済学者やエコノミストの圧倒多数が、消費増税の影響は微々たるものであり、むしろ増税による財政危機の回避などで、やがて消費が回復するとさえ主張していた。それがいかにデタラメだったのか、日本で生活していれば自明であろう。
もちろん、事実を素直に受け取れない人たちは、なぜかアベノミクスの失敗、つまり金融緩和政策の失敗と問題をすり替える。実際には、消費増税の影響で金融緩和の効果が著しく減退したのである。
そんな前回の消費増税の悪しき主犯である黒田総裁が、3月15日の金融政策決定会合を受けた記者会見で、またもや消費増税を「援護射撃」し始めたのである。本当に露骨なほどである。黒田総裁が「所得と支出の好循環が続いていく従来のシナリオに変更はない」と強調することで、日銀の追加緩和に対する圧力をかわすためとの見方が強いとられている。
今回の会合の決定内容を読み解くと、国内外の景気の行方については「日銀文学」らしいどうでもいい表現の修正は見られるが、要するに、大枠で現状の「好循環」が続くというのが委員の過半の判断のようである。それを主導したのは、紛れもなく黒田総裁であろう。
現在の黒田総裁が恐れるシナリオは、「国内外の景気減速が鮮明」→「日銀が追加緩和」→「景気減速を懸念した消費増税回避の大合唱の出現」→「消費増税凍結」という動きだろう。消費増税するかどうかの「最終判断」を、まだ安倍首相はしていないからだ。
筆者は4月中に決断すると予想している。仮にこの予想が正しければ、この3月の決定会合では、ともかく追加緩和だけは避けたかったに違いない。
おそらく、日銀の中でも景気見通しで論争があったことだろう。それで日銀文学的には、今までのバラ色の「好循環」シナリオが、少しだけくすんだ色になった「好循環」シナリオに置き換わったに過ぎない。国内外ともに経済の見通しが「緩やかになった」などという表現がそれである。
何が「緩やか」なのかさっぱり分からない、まさに文学的な表現である。しかし、そんな日銀文学の攻防戦など国民にとってはどうでもいいことだ。むしろ、この段階での追加緩和を回避したことは、黒田総裁にとって「大成功」と言えるかもしれない。
次回の決定会合は4月下旬に行われる。この時までに安倍首相は、消費増税の最終判断をしている可能性が高い。もしまだ行っていないのであれば、日銀が追加緩和するか否かが、重要な判断材料になる。
いずれにせよ、消費増税の最大の戦犯である黒田総裁の発言と行動には、国民の注視と批判が必要である。
ところで、日本経済の今後の動向は実際にどうなるだろうか。これは一般の人でもかなりの精度で分かる方法がある。いわゆる「イワタ式景気予測方法」というものだ。これは岩田前副総裁が提唱した景気予測の手法である。
内閣府がホームページ上で公表しているコンポジット・インデックス(CI)という景気動向指数がある。このCIには景気の動きに先行して反応すると考えられる先行系列、景気の動きに合わせる一致系列、さらに景気の動きに遅れて反応する遅行系列の三つに分けられる。
CIは景気の強弱を定量的に計測しようというもので、いわば景気の勢い(景気拡張や景気後退の度合い)を伝えるものだ。例えば、今後世界経済の減速がどのくらい日本経済を悪化させるのか、その度合いを予測するのに使える。
「イワタ流景気予測法」は、このCIの先行系列の6カ月前・対比年率を景気予測で重視している。筆者も経済予測ではしばしば参照にしている。
黒田総裁や日銀の公式見解では、中国経済など世界経済は年後半から回復するという予測を行っている。しかしその根拠は、「中国政府がちゃんとやるだろう」という、楽観的というよりも、まるで中国政府の「代理人」のような予測に基づいているだけである。
そこで、イワタ式景気予測をしてみると、ここ半年余りのCIの先行系列の6カ月前・対比年率は以下の通りになる。例えば、2019年1月のイワタ式指数は、2019年1月のCIの先行系列と、その半年前の2018年7月のCIの先行系列との増減を計算したものである。
このイワタ式予測法では、昨年の後半から現在までの経済悪化が鮮明になっていることがわかる。この主因は二つある。一つはもちろん「米中貿易戦争」や、米連邦準備制度理事会(FRB)の金融引き締めスタンスが大きく影響している。もう一つは、インフレ目標を絶えず先送りしている日銀の金融政策によってもたらされているといえるだろう。
黒田総裁が追加緩和を拒否している背景には、彼の在籍していた財務省の「増税主義」に対する政治的な忖度(そんたく)があるのではないか。今や黒田総裁と財務省こそが、日本の「どえらいリスク」なのである。
以上、産経新聞
> いずれにせよ、消費増税の最大の戦犯である黒田総裁の発言と行動には、国民の注視と批判が必要である。
>今や黒田総裁と財務省こそが、日本の「どえらいリスク」なのである。
米中貿易戦争で中国への輸出が激減しており、消費税アップできる環境ではない。
この状況を考える時にどうしても消費税アップさせることを優先しようとする財務省、黒田総裁は国賊である。