はさみの世界・出張版

三国志(蜀漢中心)の創作小説のブログです。
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赤壁に龍は踊る 一章 その10 孫権との対面

2024年04月01日 09時56分56秒 | 赤壁に龍は踊る 一章



『見られているな』
というのが趙雲の第一印象だ。
孫権のいるという奥堂につづく長い廊下をいくあいだも、だれかに見られている気配を感じた。
黄蓋はひとことも余計なことをしゃべらず、もくもくと孔明と趙雲を先導する。
趙雲はあたりに目を光らせながら、異変が起こらないよう気を配っていた。


それというのも、孫権が自分たちを捕縛しないという保証は、まだないからである。
さきほどの家臣たちの様子からするに、降伏派のほうが弁の立つ連中がおおく、優勢のようだった。
それに押されて、孫権が降伏にこころを傾け、劉備の使者としての自分たちを捕縛し、曹操に引き渡さないともかぎらない。
それを避けるため、すでに魯粛に頼んで小舟を用意し、胡済をそこに待機させている。
逃げる手はずは整えてある。
だが、問題はこの城内から出られるか、であった。
こちらを見張っている目は一対だけではないようだ。
最低でも三人は隠れている。
孫権を守る何者かが、奥堂に控えているのだ。


孔明は気づいているのかいないのか、あいかわらず堂々と肩で風を切るように歩いている。
こいつの肝の太さは、線の細い見た目をみごとに裏切るなと、趙雲は感心していた。
柴桑城のなかにおいても、物珍しそうにするわけでもなく、おどおどするでもなし、まるでいつも遊びに来ている場所へやって来たような様子だ。


昨晩の孔明が言っていた言葉が思いだされる。
『尊大な劉豫洲の軍師』を演じ切らなければならない、と。
さきほどの論戦は小手調べ。
これからが山場、というべきか。


やがて奥堂にたどり着く。
黄蓋は、
「お連れ致しました」
と部屋の主に礼を取った。
趙雲と孔明も、それぞれ挨拶をしながら、孫権のようすをじっくりと眺めた。
なるほど、異貌の人物であるという評判にまちがいはなかったなと、趙雲はその赤茶けた髪の色を見て思った。
大きな目は暗がりでは黒く見えたが、明るい所で見ると、また違った色になるのかもしれない。
かれは机のまえで背を丸めて座っており、そのひどいクマのできている大きな目で、じろりと趙雲と孔明をにらみつけてきた。
目力のある人物でもある。
孫権がうまれたさい、父の孫堅はその赤ん坊の目の輝きをよろこんだというが、なるほど、そのとおりで、やつれた風貌のなかでも、目だけは力を失わず、ぎらぎらと輝いていた。


孫権は趙雲と孔明を上から下までじろりとながめてから、自分も名乗って、座るよう、うながした。
孔明は流麗な動作で座る。
趙雲も斜め後ろに控えるが、もちろん、部屋の中に満ち満ちている敵意からは注意をそらさなかった。
部屋にはすでに入っていた魯粛がいるが、そのほかにも、見えないかたちで、さっきよりさらに多い人数がこちらを見張っている。
孫権を陰から守っている男たちは、なかなか働き者のようだ。
そして、守られている孫権のほうはといえば、寝起きで不機嫌な虎のように見えた。


「曹操は江陵を手中に収め、陸路を東へ進み、船で陸口《りくこう》へ上陸する気配を見せているようだな」
あいさつもそこそこに、孫権が口をひらいた。
孔明を見る目は、疑わしい者を見る目だ。
趙雲は、孫権は内気な男で、容易に人を信じないところがあるようだと見当をつけた。
人に対して、つねに開放的な劉備と比べると、そのことがよくわかる。
態度はとげとげしく、表情も苦々しく、だれも近づかないでくれと言っているようにさえ見えた。


「そのようですな。率直に申し上げますが、孫将軍は何を迷っておられますか。
早急に事態に対処しなければ、この豊かな江東の地は、曹操の軍馬に蹂躙されてしまいましょう」
孔明が口火を切った。
「そんなことはわかっておる」
「われらが将軍の力となります。呉越とわれらの軍とで力をあわせて、早々に曹操と国交を断絶すべきです。
もしそうできないというのであれば、仕方ありませぬな、甲冑を束ね、曹操に臣下の礼を取るがよろしい」
「わしに降伏せよと申すか」


まさか率直に降伏せよと言われるとは思っていなかったらしく、孫権は顔色を変えた。
しかし、孔明は孫権の変化にも知らぬ顔。
涼しい様子を崩さない。


「それは当然ではありませぬか。戦えないというのであれば、降伏する以外に道はなし。
さきほど、家臣の方々ともお話させていただきましたが、みなさま曹操をずいぶん恐れていらっしゃる。
いやはや、気持ちはわからないでもないですが、いささか恐れすぎではないかと思います」


孫権の机の上に置いた手がぴくりと反応し、その両眉が跳ねた。
うしろで聞いている趙雲も、何を言い出した、とぎょっとする。
見れば、さすがの魯粛も青ざめていた。


つづく

※ 大変お待たせいたしましたー!!
長くお休みして申し訳ありません! 本日より連載再開です。
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