はさみの世界・出張版

三国志(蜀漢中心)の創作小説のブログです。
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赤壁に龍は踊る 三章 その12 星座の下で

2024年06月10日 09時48分37秒 | 赤壁に龍は踊る 三章



夜が更けていく。
静かに音もなく移動していく星座のまたたきを上に、徐庶は闇のなか、目を凝らしつづけていた。
建屋の小さな扉がひらくことはない。
そも、徐庶が夜陰に紛れて動こうと考えたのは、ほんとうに死体を処理しているのなら、目立たない夜にも動きがあるだろうと判断したからだ。
こちらは一人で、相手は複数だろうから、現場を押さえることはむずかしい。
だが、なにか証拠をつかみ、それを公にできたら……


そこまで考えて、徐庶は、ふと思った。
『丞相はこれを知っているのか?』
まちがいなく、いま軍中に流行り病が広がりつつある。
それを隠蔽しようとして、病人が出ると建屋に押し込めて、見殺しにしているのにちがいない。
それを主導しているのはだれなのか?
仮にそれが曹操の命令だとすると、とてもではないが、もう付き従うことはできない。
しかしだからといって、そのままほったらかしにして、自分ひとりで逃げることはできなかった。
『出奔するにしても、証拠を掴んでからだ。世に少しでも正義を明らかにしてやる』
正義、ということばが浮かんだとき、徐庶はつい、おのれのなかにあった青さにおどろいた。
同時に、そんなことを自然と考えられるようになるまで、おたずねものの剣客だった過去は遠くなっていたのだなと感慨深く思った。
手にしている剣が重い。
『これを抜かなくて済むといいんだが』


そうしてしばらく夜闇のなかでうずくまっていると、ごとごと、と建屋のほうで音がしはじめた。
来なすった、と徐庶は身を固くし、息を殺した。
ぎょっとしたことに、関羽とほとんど身の丈が変わらないだろうというくらいの大男が、ぬっと小さな扉から出てきた。
手には手燭を持っており、油断なく外をうかがっている。
ぼおっと明かりに浮かびあがるその顔は、図体のわりに小作りで、どこかちぐはぐな印象を与えた。
男があまり知恵のあるほうではないのは、服のだらしない着こなしでもうかがえる。


男は、きょろきょろとあたりをうかがうと、建屋の中へ向かって、出てこいというふうに合図をした。
すると、口元を布で覆った異様な風体の二人組が、布にぐるぐる巻きにされた細長いものの右と左をそれぞれ持って、ゆっくり出てきた。
「寒い。こんな夜に、たまらぬな」
口元だけを布で隠している男のひとりが、緊迫した空気にそぐわぬ愚痴をこぼした。
とたん、大男が叱る。
「ばかやろう、そんなことを抜かしている場合か。
とっとと、そいつを埋めて戻ってくりゃあいいことじゃねえか」
「ちがいねえ。まったく、いやな仕事だぜ」
愚痴の多い男と仲間は、布にくるまれた何か……徐庶には人の体に見えた……をかついで、大男の先導で闇のなかを移動しはじめた。


男たちは夜の移動に慣れているようだった。
満月に近い月が出ているというのもあるが、行く手に障害物がないとわかっている足取りである。
徐庶も足音を殺しつつ、かれらのあとを尾行する。
じっとしていたので膝が痛かったが、構っている場合ではなかった。


やがて男たちは、要塞の隅にある、まだ建物ができていない一角にやってきた。
ちょうど、木でできた堀棒が、地面に突き刺さっているのが、月下に見える。
かれらは、
「あそこだ」
と口々にいいながら、堀棒のもとへ向かった。
「重いぜ。腰が痛くなっちまった」
「とっととやっちまおう。建屋の中にいたほうが、いくらか寒さがまぎれるからな」
そんなことを言い合っているのが、徐庶の隠れている木陰からも聞こえた。
ざくざくと土を掘る音が聞こえてもなお、まれに男たちの笑い声すら聞こえてくる。
つらい作業を冗談で紛らわせようとしているのかもしれないが、異常な光景であった。


つづく

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本日分はちょっと短めですがご容赦くださいませ。
果たして、徐庶の冒険はどこへ行きつくか?
どうぞ次回もお楽しみにー(*^▽^*)


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