帯とけの古典文芸

和歌を中心とした日本の古典文芸の清よげな姿と心におかしきところを紐解く。深い心があれば自ずからとける。

帯とけの「古今和歌集」 巻第八 離別歌 (380)白雲の八重にかさなる(381)わかれてふ事は色にも

2018-01-03 19:09:33 | 古典

            

                      帯とけの「古今和歌集」

                      ――秘伝となって埋もれた和歌の妖艶なる奥義――

 

平安時代の紀貫之、藤原公任、清少納言、藤原俊成の歌論と言語観に従って「古今和歌集」を解き直している。

貫之の云う「歌の様」を、歌には多重の意味があり、清げな姿と、心におかしきエロス(生の本能・性愛)等を、かさねて表現する様式と知り、「言の心(字義以外にこの時代に通用していた言の意味)」を心得るべきである。藤原俊成の云う「浮言綺語の戯れに似た」歌言葉の戯れの意味も知るべきである。

 

古今和歌集  巻第八 離別歌

 

陸奥国へまかりける人に、よみて遣はしける

貫之

白雲の八重にかさなるをちにても おもはむ人に心隔つな

(みちのくにへ赴任した人に、詠んで遣った・歌……未知の・路のくにへ入った男に、詠んで遣った・歌)(つらゆき)

(白雲の八重にかさなる遠方にても、君を思っているであろう、京の人々に、心隔てるなよ……白々しい心雲が八重にかさなる、落ち・堕ち、にても、おも食む女に心隔てるな)。

 

「白雲…大空の白い雲…白々しい心雲」「雲…心にわきたつもの…白くも…厭き…白けた情」「をち…遠方…おち…落ち…堕ち…(山ばから)堕ちたところ…いけ…池…逝け」「おもはむ…思うであろう…心配しているであろう…おも食む…おに喰らい付くであろう」「お…を…おとこ」「も…強調の意を表す」「人…人々…女」「心隔つな…(疎んじて)遠ざけるな」。

 

遠方へ赴任した若き男への、はなむけの言葉――歌の清げな姿。

ものは伏したままでも、最後まで、おんなのために、心砕きぬさをたむけ、心隔てるな――心におかしきところ。

 

和合の心得その一。


 

 

人をわかれける時に、よみける   (つらゆき)

わかれてふ事は色にもあらなくに 心に染みてわびしかるらむ

(人と別れた時に、詠んだ・歌……女と別れた時に詠んだ・歌)

(別れと言う事は、色ではないのに、心に染みて、わびしい、どうしてだろう……峰の京での・別れという事は、色素でも・色情でもないのに、心に浸みて、せつなく哀しい、どうしてだろう)。

 

「わかれ…別れ…離別…身離れ…山ばでの男女のわかれ…(女と男のさがの違いにより)ものには峰の別れがある」「いろ…色…色素…色事…色情」「しみて…浸みて…浸透して…染みて…染まって」「わびし…侘びし…切ない…哀しい…心細くやりきれない」「らむ…どうしてなんだろう…原因理由などを推量する意を表す」。

 

遠方へ赴任した人と別れた時の独白――歌の清げな姿。

峰の別れの後の、おとこのどうしょうもない悲哀、どうしてだろう――心におかしきところ。

 

和合の難しさその一。

 

(古今和歌集の原文は、新 日本古典文学大系本による)