帯とけの古典文芸

和歌を中心とした日本の古典文芸の清よげな姿と心におかしきところを紐解く。深い心があれば自ずからとける。

帯とけの「古今和歌集」 巻第八 離別歌 (402)かきくらしことは降らなむ春雨に

2018-01-26 20:13:06 | 古典

            

                      帯とけの「古今和歌集」

                     ――秘伝となって埋もれた和歌の妖艶なる奥義――

 

平安時代の紀貫之、藤原公任、清少納言、藤原俊成の歌論と言語観に従って「古今和歌集」を解き直している。

貫之の云う「歌の様」を、歌には多重の意味があり、清げな姿と、心におかしきエロス(生の本能・性愛)等を、かさねて表現する様式と知り、言の心(字義以外にこの時代に通用していた言の意味)を心得るべきである。藤原俊成の云う「浮言綺語の戯れに似た」歌言葉の戯れの意味も知るべきである。

 

古今和歌集  巻第八 離別歌

 

(題しらず)           (よみ人しらず)

かきくらしことは降らなむ春雨に 濡衣きせて君をとゞめむ

(題知らず)           (詠み人知らず・匿名で詠まれた女の歌として聞く)

(天空暗くして、できれば降ってほしい、その春雨に濡衣きせて、悪い春雨ねと、帰れない君を、我が宿に留めましょう……掻きくらし果てて、こと成れば古びる、降ってほしい春雨に罪負わせて、空が暗い帰れないわよ、貴身、わが身に留まってほしい)。

 

 

「かきくらし…暗くして…掻き暮らし」「かき…接頭語…掻き」「くらし…(天空)暗らし…(心)暗くして…暮らし…ものの果てが来て」「ことは…ことば…できる事ならば…事は…行為は…ものごとは」「降らなむ…降ってほしい…古らなむ…古びるでしょう…果て逝くでしょう」「なむ…してほしい…願望を表す…するでしょう…するに違いない…確実な推量を表す」。

 

朝帰る男を留めようと、策を弄する妻女の独り言――歌の清げな姿。

本降りの、その時のおとこ雨に何としても降られなければ、貴身を離さない、おんなの情念――心におかしきところ。

 

大堅でなくとも、たいていのおとこは、ほだされる・情愛のきずなに縛られることだろう。

 

(古今和歌集の原文は、新 日本古典文学大系本による)