映画「武士の家計簿」を見た。
以前、原作となった磯田道史さんの「武士の家計簿」(新潮新書)を読んで、それまでの江戸時代観が変わった覚えがある。
磯田さんは、神田の古本屋で反故同然の古文書を発見し、それを読み解いて、幕末期の金沢藩の武士の生活を生き生きと描いていた。著者が、古文書を読み解きながら、わくわくしている気持ちが、そのまま伝わってくるような本だった。研究というのは、こういうことなんだと、感動した。
小説ではなく、歴史の研究書を原作にして、森田芳光監督がどんな映画をつくったのかという興味、主役の堺雅人以下、面白そうな配役陣への興味から、封切前から見に行こうと決めていた。
期待を裏切らない映画だった。
自分が精神的にしんどい時は、あまり深刻な映画は見たくない。能天気なものも、かえって気分が滅入る。 この映画は、しんどい人も、しんどくない人も、誰が見ても、それぞれの立場で受け止めて見ることができる映画である。
平日の昼間だったので、観客は中高年が多く、共感することしきり、笑いも涙もあり、上質の娯楽作品だと思う。
主人公を演じる堺雅人は、この人以外にこの役は出来ないのではないだろうかと思わせるほどぴったりだったし、その妻役の仲間由起恵も、老夫婦役の松坂慶子、中村雅俊、おばば様の草笛光子、義父の西村雅彦も、みんな役どころを見事に押さえて演じている。
幕末の下級武士の家庭を描きながら、現代世相への風刺も絶妙にちりばめられており、さすが森田芳光監督! と感心した。
見終わった後、昔も、今も、人にも自分にも誠実に、つつましく生きることが、美しく、人間も幸せでいられるのではないだろうかという思いを強くした。