コラム(301):戦没者の遺骨収集を金儲けの道具にしてはならない
遺骨が日本人のものではない
7月末、NHKは、2014年8月に東シベリアのザバイカル地方で日本人のものとして収集した遺骨のうち判別できた遺骨のすべてが日本人ではなく、厚生労働省はこの事実を公表していないと報じました。
8月5日には、新たに70人分の遺骨についても同様であるとの報道がありました。
さかのぼって2010年には、フィリピン人の遺骨が収集された日本兵の遺骨に含まれているとの報道がなされています。
このとき問題視された特定非営利活動法人の「空援隊」は、現地のフィリピン人に掘り起こした遺骨と引き換えに労賃としてお金を渡すという方法で作業を進めました。その背後では、埋葬されていたフィリピン人の遺骨の盗難が相次ぐ事件が発生していました。その「空援隊」はその後も厚生労働省からの委託費を4700万円にまで倍増され支払われています。
遺骨利権の実態
海外戦没者は約240万人、そのうち約半数の128万の遺骨が持ち帰られ千鳥ヶ淵にある戦没者墓苑に納められています。しかし、残りの半分は未だ海外にあり、戦友や遺族にとってはせめて祖国の土に埋葬して弔いたいという心情があります。
遺骨収集に名乗りをあげるさまざまな民間団体やNPOが設立されましたが、彼らの殆どが、遺骨収集を名目に、国から予算を受け取り、国からの支援事業であることをうたって民間企業や個人から寄付金を集めています。いわば、遺骨収集を利権やビジネスに利用しているわけです。
1970年代、筆者の後輩がサイパンの遺骨収集に参加した折りには、大型旅客船を貸切っての往復だったとのことで、事業内容とは不相応な資金が投入されているという印象を持ったことを覚えています。すでにそのころから、遺骨収集はお金になるビジネスで、その流れはいまでも続いているといえます。
厚生労働省の担当職員や収集作業を請け負う団体は、はじめから戦没者に対する尊崇の念や慰霊の気持ちはありません。彼らはもっぱら、国からの多額の予算を引き出すことや、寄付金名目の金をどれだけ集めるかが目的です。現地での仕事は安い日当を支払い形式的にすませ、誰も遺骨でもお構いなく日本人戦没者の遺骨として持ち帰ってきているのです。
ところが近年ではDNA鑑定の精度が高まり、でたらめな作業をしていたことが次々と発覚しています。
厚生労働省の不正体質
遺骨収集団体が野放図な活動を続ける原因は、厚生労働省にあります。
厚生労働省は予算を定め(遺骨収集事業等に本年度は 23億6000万円)、それを恣意的に運用し、特定の遺骨収集団体に補助金を交付しています。
筆者に寄せられた情報では、そこには厚生労働省関連利権に群がる国会議員の存在もあるようです。
さらに、NHKによる指摘を受けても事実を公表せず、発掘場所への返還もしない姿勢そのものが厚生労働省の体質を物語っています。
実は従来から厚生労働省の不正支出はたびたび会計検査院から指摘されています。
2009年度の会計検査院決算検査報告では、財団法人日本遺族会に対する「遺骨収集等派遣費補助金」約3.6億円のうち、約3600万円が不当支出との指摘がなされています。当時の遺族会会長は自民党の古賀誠氏でした。
また、2016年度の会計検査院検査報告には「海外遺骨収集等事業の約4.6億円の会計経理は著しく適正を欠いており、不当と認められる」、「会計法令を遵守して適正な会計経理を行う必要性についての認識が著しく欠けていた」との指摘があります。この中には使途不明金約879万円が含まれています。これにより、2017年、厚生労働省は職員65人を減給や戒告などの処分を行いました。
毎年夏になると終戦記念日が近づくと、祖国のために散華していった先人を思い起こします。この悲しみの記憶を真摯に受け止めることなく、遺骨の収集を利用して利権活動やビジネスの対象とすることは恥ずべき行為です。
厚生労働省は遺骨収集事業の是非も含め、戦没者とそのご家族の尊厳を守るための方策を真剣に検討していただきたいと思います。
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