⑤中国のロビー活動の実態——移民の力 その1
(続きです——本講演録は、特別に許可を頂いて公表いたしております。)
このペロシの変節とも言える発言の背景には、これはそもそも分かっていたことなんですけれども、彼女の選挙区であるカリフォルニア州のサンフランシスコが、アメリカで最大かつもっとも影響力のある中国系移民の居住地であるということが報道されたりもしました。
アメリカの選挙運動における中国系移民の影響というのは、中国が自分の国の利益のためにロビー活動を行う主な手段となっているんですね。アメリカ国勢調査局のデータ によりますと、約10年前の2013年のアメリカ在住中国人というのは、ちょっと古い数字 なのですがすみません、430万人。
これは全人口のわずか1.3%です。主な居住地区は、カリフォルニア州が43%、ニューヨーク州が13%、テキサス州が7%となっております。アメリカ在住の台湾系移民の約55%も、カリフォルニア州に住んでおりまして、ニューヨー ク州では約 20% が中国本土出身者となっております。
サンフランシスコ、ロサンゼルス、ボストン、シカゴといった大きな街には、中国系移民のかなりの部分が居住しているだけではなくて、他の大都市にもだいたい大なり小なり、チャイナタウンがあるんですね。アメリカにおける華人は、=フリトカジン=、中華の華ですね。移住した先でアメリカ国籍を取った帰化中国人を華人と言うんですけれど も、これはほとんどの華人は1980年以降にアメリカに移住しまして、この傾向は今も続い ております。
中国当局は、積極的にこれら華人と連携しているんですね。華人とは今申し上げたとおり、中国以外の海外に移住して、その国の国籍を取得した元中国人のことを言いますけれども、似たような言葉に華僑というのがあります。これは海外に移住はしまし たけれども、国籍は中国のままの人のことを言います。
中国と帰化中国人という差はありますけれども、どちらも祖国に忠誠心を持ち続けている点は共通します。帰化中国人、すなわち華人のすべてがすべて、そうだとは申し上げませんが、その傾向は他のどの民族よりも強いのは、各国で中華街を作って集住している姿を見れば、これは明らかです。アメリカに移住した日系人が、アメリカ社会に溶け込もうと努力するのに比べて、華人のそれはもう本当に対照的なんですね。
このように、在米華人には祖国への忠誠、心の団結、偉大な中華民族の復興を目指し、 祖国への誇りを賭け、アメリカ国内で祖国中国に奉仕する腹づもり、意向があるんですね。
中国国外で生まれた人々のために、北京は歴史的ルーツへの回帰というプログラムを実施するんですね。祖国中国への旅行を計画して、みんなを連れていく、感化させる。2008 年には5,000人以上が中国本土を訪れました。北京とワシントンの関係が話題になるたびに、中国側は中国とアメリカの間の自由な旅行、文化交流だとか研究交流といったことに 言及しております。
もう一つの影響力の手段は、アメリカにおける選挙運動への中国の隠れた資金提供なんですね。これが初めて明らかになったのが1996年のいわゆるチャイナゲート事件に関連してであります。当時、疑惑はビル・クリントン大統領に向けられていました。彼はコーネ ル大学で講演する予定だった当時の台湾総統、李登輝さんへのビザ発給問題で、議会から 圧力をかけられましたが、後に屈服せざるを得ませんでしたけれども、その後すぐに中国系企業から多額の金額を受け取っていたことが判明しております。これらは、外国のエージェントによる選挙運動への違法な資金提供とされました。
チャイナゲート事件のもう一つのエピソードは、民主党政権がアメリカのスプートニク技術を中国軍に売却することに、目をつぶっていたという非難でした。特徴的なのは、ア メリカにおける中国系移民の継続的な増加が、よく組織化されたものであるということで す。中国当局は、政治家の選挙資金への寄附を通じて、効果的な影響力行使の手段を手に入れています。
アメリカでは個人から候補者またはその支援委員会への寄附は、2,700ド ル、約41万8,000円までと厳しく制限されております。現金での寄附は100ドル、約1万 5,000円までですけれども、つまり北京の意向をよく聞く在米の中国系移民というのは、北京にとって有利な立場を支援するアメリカの政治家を支援するための、理想的なツー ル、歯車になっているわけです。
とどのつまり、アメリカにおける中国のロビー活動の成功を決定づける要因にまず上げられるのは、アメリカ経済が中国資本に強く依存していることです。加えて、中国共産党の中央統一戦線工作部、統線部と言いますけれども、これが運営する組織化された在米の 中国人移民、共和党と民主党の政治闘争の利用、元アメリカ政府高官、彼らや中国にいる親族のビジネスに有利な条件でのビジネスの提示などがございます。
アメリカにおける中国への輸出の主な受益者というのは、ハイテク機器、輸送機械、農産物、電子部品、化学製品の生産者なんですね。
こういったものをアメリカから中国へ輸出すればするほど、儲かる。儲かっている人はいっぱいいるということですね。冶金 や繊維産業は人民元の不当な為替ルートで利益を大きく損なっておりますけれども、今あげた親中国系企業の収益の大きさと、それに伴う発言力の大きさとは比較にならないんですね。
対中貿易で不満を言う人たちというのは、声が小さいんですね。だから、いくら反中国を唱えても、アメリカ連邦議会の上下両院の政治家たちが、対中貿易で利益を上げる、地元選挙区の企業の声に押されるゆえんであって、中国に雇われたロビー会社が活躍 する背景となっているのでございます。アメリカにおける中国系移民の増加は、選挙運動の過程で議員にかかわる圧力を高めているんですね。
一方、中国のロビー活動の弱点もあるんですね。中国の利益は、必ずしもアメリカの利益に合致しない点、これが中国のロビー活動の弱点です。これは、たとえて言うならば、イスラエルのロビー活動とは対照的でございまして、イスラエルの国益はアメリカの国益に直結するという同盟国の強みがあるんですね。
これは同じ同盟国の日本にも言えることでございまして、中国のロビー活動がいかに盛んでも、安全保障上の観点からいえば、最後は日本との連携こそがアメリカにとって、経済上も重要のことだと働きかけることがで きるメリットが、日本側にはイスラエルと同じようにあることを忘れてはなりません。
さて、今までアメリカにおける中国のロビー活動を見てきましたけれども、ここでは逆に中国におけるアメリカ企業のロビー活動を見ていきたいと思います。
これは本講座のメインテーマではございませんけれども、避けて通らないほうがいいかなと思うので、手短にお伝えしたいと思います。アメリカにおける中国のロビー活動は、 中国におけるアメリカのロビー活動と、一衣帯水の関係になっているからなんですね。中 国共産党政権の好きなWin-Winの関係、これがそこにあるんです。
日本の安全保障への懸念など、どこ吹く風とばかり、アメリカ企業の中国への浸透は、すさまじいものがあります。ワシントンでの中国のロビー活動というのは、何となく活発なんだろうな、うごめい てるんだろうなと思いますけれども、実は中国においてもアメリカ企業のロビー活動というのは、結構やっているんですよ。
これはもっともアメリカ側に言わせればー一言ってませんけれども、心の声ですねーー 天安門事件のあと、天皇陛下を訪中させたりして最初に西側の経済制裁の輪を破ったのは 日本じゃないかと。どの口が言うんだというのが、心の声として聞こえてくるんですけれども、日本の対中外交の失敗が、この天皇陛下を訪中させてしまった。私は失敗だと思っていますけれども、経済制裁の輪を乱したということですね。穴を開けてしまった。
この外交的な失敗が、結果として同盟国アメリカの企業の暴走を許し、巡り巡って日本の首を 絞める結果となった。これは否めないと思います。1970年代以降、アメリカには2つの中国ロビイストグループが存在しました。これは少し戻るんですけれども、アメリカの話、しかも2010年前の話です。
ーつは台湾の利益のために活動する国民党政権の支持者です。もう一つは、北京とつながりがあるグループですね。しかし、21世紀になってから、北京グループのロビー活動は台湾ロビーを凌駕するまでに急拡大します。
中国を支持する最初のロビイストの中心は、ハイテク分野で活動する アメリカ企業なんですね。彼らは貿易障壁を撤廃し、広大な中国市場に参入することに関心を持ったからなんですね。IT企業、中国で儲けるぞと。中国におけるアメリカのロ ビー活動が活発化する背景ですね。
彼らこそが、アメリカ議会で中国との貿易関係正常化 に関する法律を採択するように、アメリカ政府に強制し、強力にプッシュして、実際クリ ントン大統領が2000年11月11日にそういった法律に署名しております。米中の正常な貿易関係導入というのが、実際には1989年の天安門事件後に発動された北京に対する経済 制裁の放棄を意味することになりました。
(つづく)