習近平の憂鬱——内部に不満がたまりすぎた中国

中国で起きている無差別殺傷事件、無差別大量殺傷事件は、2月から11月の間に表向きに出ているだけで25件もあります。これには、何十人も殺したという事件もあれば、一人だけが犠牲になった事件や、人を殺さずに殺傷だけで済んだテロ事件も含まれているわけでが、実際にはもっと多く起きているんじゃないかと思います。
これが、中国共産党独裁体制の崩壊の「終わりの始まり」なのかもしれないと思われ。要するに、もう治安が保てなくなっているということです。景気が悪くて庶民がいろんな問題を抱え込んで、それが煮詰まってしまって、社会全体に復讐してやるぞというような無差別殺人や殺傷事件を起こす、という状況が見られるわけです。
現在の中国の内部状況について、国際政治学者のご意見を伺ってみました。
無差別殺傷事件についてです。今年2月から11月までに、なんと25件も発生しました。この件数は、ネット上で調べてわかる範囲での数字に過ぎません。非常に深刻な問題であり、私たちのレポートでは可能な限り詳細に、この25件について記録しています。
最も注目された事件の一つが、11月11日に広東省珠海市にある運動施設で発生したものです。一台の車が暴走し、多くの人をはねて、35人が死亡、43人が負傷しました。運転していた62歳の男は、離婚後の財産分与をめぐる不満が動機であったと当局は発表しています。しかし、中国の共産党支配のもとでは、情報や言論の自由が制限されているため、事件の本当の背景については不明な点も多い状況です。
11月16日には江蘇省無錫市の職業技術学校で、21歳の男が刃物を使い、8人を死亡させ、17人にけがを負わせる事件が起こりました。この男は同校の生徒で、試験に不合格となり卒業証書を得られなかったことに不満を抱いていました。また、学校での「実習」と称して労働を強いられ、報酬が非常に低かったことにも不満があったとされています。
こういった事件では、車を使った暴走や刃物での襲撃が特徴的です。日本でも秋葉原の事件のように、同様の無差別殺傷事件が時折発生します。また、アメリカでは銃を使った無差別殺傷事件がレストランなどで起こることがあります。しかし、中国におけるこれらの事件の背景には、経済的な困窮と社会的な閉塞感が大きく影響していると考えられます。
中国では経済がうまく機能しておらず、個人の倒産や失業が増加しています。それを救済する経済政策も不足しており、不満を訴える手段すら制限されています。SNSや通常の言論活動は共産党によって厳しく抑制されており、不満のはけ口がほとんどありません。
一方で、日本などの社会では、選挙やメディア、インターネット上での自由な発言などを通じて、不満を表明し社会を変える手段があります。また、裁判を利用して正当な権利を主張することも可能です。しかし、中国ではこうした手段が事実上存在しません。
共産党の支配体制に抗うことができない中で、人々の欲求不満は蓄積し、それが暴発するケースが増えています。かつて高度経済成長期には、多くの人々が経済的な恩恵を享受し、社会全体が比較的安定していました。しかし、現在の経済不況の中では不満のはけ口がなくなり、それが社会問題として表面化しているのです。
以前は地方で問題が発生した場合、北京に出向いて当局に直訴することがある程度許されていました。日本で言うところの「百姓一揆」のようなものです。しかし、そのような手段さえも現在では厳しく制限されています。これが中国社会の現状です。