赤峰和彦の 『 日本と国際社会の真相 』

すでに生起して戻ることのできない変化、重大な影響力をもつ変化でありながら一般には認識されていない変化について分析します。

【関連】アサドとプーチンの残念な共通点

2024-12-28 09:00:00 | 政治見解
【関連】アサドとプーチンの残念な共通点



昨日と、今日午前0時掲載のシリア情勢についてのお話の【関連】情報です。

今回は、ロシアの事情通からの報告を頂きました。他に類のないご意見ですので、許可を得て掲載いたします。


★シリアの独裁者アサドとプーチンの共通点

皆さんも感じていらっしゃると思いますが、今、世界で不安定な国、地域が多くなっています。現状を見ると、韓国、ジョージア、シリアなどが大変なことになっています。今回は、長期独裁政権が倒れたシリアの話を。

2010年代はじめ、「アラブの春」というのが流行りました。チュニジア、エジプト、リビア、イエメンなどで、
長期政権が打倒されました。

シリアでも2011年から、アサド政権と反アサド派の対立が激しくなり、内戦が勃発。しかし、アサド大統領は優勢に戦いを続け、内戦勃発から13年経過しても、政権に留まり続けていました。なぜでしょうか?

「シリア内戦」は大国の「代理戦争」でした。

反アサド派を支援したのが、欧米とスンニ派の大国、サウジアラビア、トルコなどです。

一方、アサド派を支援したのが、ロシアとシーア派の大国イランです。
結局アサドがサバイバルできたのは、ロシアとイランの支援があったからなのです。

3年前の地図を見ると、アサドはシリアの8割ぐらいを支配しているように見えます。

※2021年の勢力図


反アサド勢力の支配地域は、ざっくり5%以下といったところでしょうか。ところが、反アサド勢力は息を吹き返しました。なぜでしょうか?

賢明な皆さんなら想像がつくでしょう。アサド政権最大の味方はロシア、2番目の味方はイランです。

ロシアは今、ウクライナ戦争で余裕がない。プーチンは強気を崩していませんが、弾薬を北朝鮮からもらい、戦場に北朝鮮兵を投入しています。余裕があれば、北朝鮮軍に頼らないでしょう。

イランは、どうでしょうか? イランは、「手下」を使って、イスラエルを攻撃させていました。具体的には、ガザ地区のハマス、レバノンのヒズボラ、イエメンのフーシ派などです。

ところが、イスラエル軍は、ハマスとヒズボラに壊滅的打撃を与えました。そして、イスラエルは、トランプ新大統領のサポートを得て、イラン核施設を破壊する意向です。だから、イランは、イスラエル+アメリカとの戦争に備える必要がある。それで、シリアを支援する余裕がないのです。

アサドは、ロシアとイランからの支援をアテにできない状態で、反アサド派と戦わなければならない。だから、ボロボロになっていたのです。

「反体制派がシリア第2の都市アレッポを制圧した」とニュースが流れたのは11月30日でした。それからわずか8日で、首都ダマスカスは陥落。アサドは逃亡し、政権は崩壊しました。

2022年3月、国連総会でロシアのウクライナ侵略を肯定した国は4ヶ国だけでした。北朝鮮、ベラルーシ、エリトリア、そしてプーチンの親友アサド大統領のシリアです。プーチンは、数少ない盟友を失いました。これもプーチンの【 戦略的敗北 】といえるでしょう。


★独裁者アサドとプーチンの共通点

今回のアサド政権崩壊。「嗚呼、プーチン・ロシアと同じだな」と思いました。なぜでしょうか?



既述のように、シリアの反体制派が第2の都市アレッポを制圧したのは11月30日。首都ダマスカスが陥落し、アサド政権が崩壊するまで、わずか8日です。

反アサド派は、ほとんど抵抗を受けることなく、アサド政権を崩壊させることに成功しました。わいてくる疑問は、「シリア軍は何をしていたのだ?」ということです。

答えは、「何もしなかった」です。要するに、アサドの軍隊シリア軍には、アサドを守る意志や忠誠心が全然なかったということです。実をいうと、プーチン・ロシアも同じでした。

思い出されるのは、2023年6月23日から25日に起きた「プリゴジンの乱」。民間軍事会社ワグネルの創設者プリゴジン。

ロシア正規軍がだらしない中、自ら前線に立ち、ウクライナ軍を大いに苦しめていました。それで、ロシアでは、「プリゴジンはウクライナ戦争の英雄だ!」と絶賛されていたのです。

ところが2023年5月、プリゴジンは、ショイグ国防相(当時)とゲラシモフ参謀総長を非難する動画を投稿。

「ショイグ~、ゲラーシモフ、弾薬はどこだ~!?」と鬼の形相で絶叫する動画が、世界に拡散されました。【動画】 

この動画の翌月、彼は、ワグネルを率いてモスクワに向けて進軍したのです。

驚くべきは、プリゴジンが6月23日の1日だけで、人口114万人のロストフ・ナ・ドヌ、人口106万人のヴォロネジを制圧したことです。なぜそんなことが可能だったのでしょうか?

要するに、ロシア軍が全然動かなかったということでしょう。

ロストフ、ヴォロネジ、2つの100万人都市を制圧し、プリゴジン率いるワグネルは、破竹の勢いでモスクワに迫ります。しかし、モスクワから200キロの所で停止し、ロストフに引き返し、その後ウクライナにむかいました。

プーチンは、反乱に参加したプリゴジンとワグネルメンバーの罪は問わないとしました。

ところが2023年8月、プリゴジンの乗った飛行機が墜落し死亡。誰もが、「プーチンに殺された」と思ったのです。

シリア「反アサド派」とロシア「ワグネル」の共通点は、何でしょうか?
「正規軍がほとんど抵抗しなかったこと」です。

シリア「反アサド派」とロシア「ワグネル」の違う点は何でしょうか?
「反アサド派」は、決心して首都を制圧したことです。

プリゴジンには、クレムリンを制圧し、クーデターを実行する決意がありませんでした。その違いだけです。正規軍が無抵抗だったのは、シリアもロシアも同じ。

ここから何がわかるかというと、シリア軍もロシア軍も、アサドやプーチンに心服しているわけではない。「恐怖によって支配されているだけ」ということです。

忠誠心は全然ないので、あるきっかけで、あっという間に崩壊してしまう。そういう意味で、プーチンもアサドと同じ、「裸の王様」ということでしょう。

現在ロシア軍は、ドネツク州の戦場で、優勢です。トランプが大統領になれば、「現在の前線で停戦」「ウクライナをNATOに加盟させない」という条件で停戦交渉が始まるでしょう。そして、プーチンの要求が通る可能性は高いです。

とはいえ、プーチン政権もボロボロです。ロシアは、北朝鮮軍に参戦してもらわなければならないほど兵力が不足している。北朝鮮から弾薬をもらうほど、弾薬が不足している。軍事同盟国アルメニアやシリアを守れないほど余裕がない。

プーチン政権は盤石? 外からはそう見えます。アサド政権が盤石に見えたように。しかし、内部は腐ってボロボロです。何度も書いていますが、プーチンはすでに戦略的に敗北しているのです。

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②シリア新政権——アサド政権崩壊の真因と対米関係

2024-12-28 00:00:00 | 政治見解
②シリア新政権——アサド政権崩壊の真因と対米関係




昨日からの続きです。特別の許可を頂いて掲載しています。


アサド政権が崩壊した隠れた理由の一つに、違法薬物問題があったと言われています。

ここで言う「麻薬」とは、正確にはカプタゴンという覚醒剤のことです。このカプタゴンは非常に低コストで製造できる覚醒剤として知られています。

世界銀行の調査によると、カプタゴン取引の約80%はシリア産だとされています。そして、この薬物はサウジアラビアやUAE、ヨルダンといった周辺の中東諸国に広がり、深刻な汚染を引き起こしていました。

さらに、世界銀行の推計によると、カプタゴンの年間市場規模は56億ドルに上ると言われています。

これはあくまで推定値ですが、シリアの2023年のGDPが約62億ドルであることを考えると、カプタゴン取引の規模がいかに大きいかが分かります。

このカプタゴンの生産についてですが、製造や流通の元締めを行っていたのは、バシャール・アサド大統領の弟であるマーヘル・アサドだと言われています。


2011年からシリアは内戦状態に入り、経済や財政が非常に厳しくなりました。その苦しい状況の中、シリア政府はカプタゴンの生産を始め、周辺国へ輸出するというブラックビジネスに手を染めてしまったようです。シリアでは、この1年間で19億ドルもの利益を上げたのではないかと推定されています。

このカプタゴン問題が影響し、シリアはアラブ連盟に復帰したものの、周辺国からの評判は非常に悪い状態です。「早急にこの問題を解決してほしい」という声が上がっています。

例えば、シリアからヨルダンへのカプタゴン密輸が行われていることが問題視されています。ヨルダン政府は密輸品を運ぶ無人機(ドローン)を撃ち落とす対策を取ったり、ヨルダン軍がシリア国内にあるカプタゴンの製造拠点を爆撃することも過去にありました。

こうした迷惑行為が続く中、アサド政権の信用は失墜し、ロシアのプーチン大統領も「カプタゴンに依存するアサド政権は交代させるのもやむを得ない」という判断に至ったのではないかと考えられます。

さらに、カプタゴンの問題はHTS(ハヤート・タハリール・アル・シャーム)にも紐づいており、こちらの指導者であるジャウラニ氏についても言及されています。トルコがHTSの主な資金源とされており、イランもこの状況を「望ましくはないが、やむを得ない」と捉えているようです。このような力学の中で、新たなシリア政権が誕生したとも言えるでしょう。

ですから、その力学については理解しているのでしょう。トランプ氏は早い段階で「これは我々アメリカが関与すべき戦争ではない」と徹底して不干渉を貫き、「ここには関わってはいけない」と明確なメッセージを出しました。

関わってしまうと、先ほど申し上げたようにロシアがバックアップしている政権と対立し、米露戦争の危険性が高まるためです。そのためトランプ氏は、シリアには干渉すべきではないと主張しました。

実際に12月7日、アサド政権が崩壊すると決まった際、トランプ氏はそのメッセージを改めて発信しています。

一方、シリアの弱体化をチャンスと捉えたイスラエルのネタニヤフ政権は、12月8日ごろから爆撃を大々的に開始しました。これまでに450回もの爆撃が行われたと言われています。シリア国内の軍事基地や兵器庫などが標的となっており、イスラエルとしては、新たなシリア政権がその兵器を使って攻撃してくることを防ぐ狙いがあるようです。

アメリカは、IS(イスラム国)がシリアで再び勢力を拡大することを警戒し、シリア国内のIS拠点への空爆を実施しています。こうした状況が続く中、イスラエルとシリアの戦争が勃発する可能性も出てきています。

もしそうなれば、アメリカとロシアの対立がさらに深まり、第3次世界大戦という最悪のシナリオが現実味を帯びてしまいます。だからこそ、トランプ氏は「干渉するな」と強く主張しているのでしょう。

一方、バイデン政権は第3次世界大戦を招きかねないロシアとの対立を煽るような挑発的行動を、最後の最後まで続けているのが現状です。



イスラエルはすでにゴラン高原を占拠していますが、その先にあるシリア本土との間の非武装地帯に軍隊を進め、シリア軍の侵入を防ごうとする動きが見られます。この状況がシリア・イスラエル間の戦争を再び本格化させるのではないかと非常に心配です。

戦争を引き起こそうとする勢力も常に存在しているため、イスラエルも挑発に乗らないことが重要だと思います。

現在のシリアのジャウラニ政権は「宗教的に寛容な姿勢を取る」と表明しており、ヨーロッパやトルコからシリア難民が帰還する可能性が出てきました。これは非常に良いことです。


これまでヨーロッパは難民の流入が増え続け、その多くがシリアからの避難民でした。彼らがシリアに戻ることができれば、ヨーロッパとしても歓迎すべきことです。また、トルコも約300万人ものシリア難民を受け入れているため、彼らが帰還することになれば、大きな負担軽減につながります。

トルコもまた、シリア難民の帰還を条件にジャウラニ政権を支援していたのだと考えられます。

トランプ政権の始動は1月20日です。それまでに第三次世界大戦の危機が完全に去ったわけではないことも忘れてはなりません。

(了)

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