明日は我が身――ウクライナ戦争の教訓③:230212情報
昨日に引き続き、ウクライナの危機の現実を、ウクライナ出身の国際政治学者グレンコ・アンドリー氏の著作を通して学びます。
■売国政権による意図的な軍の解体
2014年2月のロシア侵攻の引き金になったのは、ヤヌコビッチ政権の崩壊だった。親ロシア政策をとっていた同大統領はウクライナの最高議会(国会)で解任決議がなされた後、ロシアに亡命した。
ヤヌコビッチ政権が売国政権だった事は、防衛大臣がロシア国籍を持つロシア人だったことで明らかになった。この人物も政権崩壊後に、ロシアに逃亡した。そして、モスクワのクレムリン宮殿で行われたクリミア編入を祝う式典に出席した。
彼がロシア国籍を放棄していなかったことは、逃亡後発覚したのである。このような人を防衛大臣に任命する大統領はどういう人か、想像がつくだろう。この4年間の売国政権の間は、それまでに無秩序に起きていたウクライナ軍の衰退が、意図的に軍の解体に変わった。
あの売国政権は、ロシアの指示を受けてウクライナの防衛力を削いでいたのだ。
■「自らの血を流して戦わない国は、助ける意味がない」
2014年3月、ロシア軍がクリミアを占領し始めると、ウクライナは武力による抵抗をせず、国際社会にロシアの暴挙を止めるように要請した。国際社会はロシアを批判し、クリミア半島のウクライナへの帰属を確認する声明を発した。そしてロシアに対して、直ちにロシア軍をクリミア半島から撤退させるように要求した。
しかし、実際にロシアの侵略を止めるための行動をした国は一国もなかった。自らの独立のために血を流して戦わない国は、助ける意味がない、と判断したのだろう。
2014年4月以降、ロシアがウクライナ東部への侵略を開始すると、戦わずして国際社会に助けを求めても無駄だと覚ったウクライナは、弱体化した軍を立て直しつつ自力で戦いに臨んだ。
すると、国際社会の反応は少しずつ変わり始めた。ロシアに経済制裁を行い、ウクライナへの経済支援を開始した。ウクライナ軍とNATO軍の合同軍事演習が実行され、NATOからウクライナ軍に指導官が派遣された。
戦争が長引くにつれて、対露経済制裁は次第に強化され、ウクライナへの支援も経済援助から、軍事物資や兵器の提供を含むようになった。
ウクライナ政府は防衛予算を2倍増とし、兵隊の数も増やし、装備の充実と新兵器の導入を始めた。しかし、如何せん戦争になってからでは遅い。
■「明日は我が身」
ロシアとの戦いは、ウクライナ人を覚醒させた。旧ソ連時代の残滓の一掃を始めたのである。まず、戦争前にはウクライナ各地で2千基以上建っていたレーニンの記念碑の撤去を始めた。この動きをロシア政府は「歴史を侮辱する蛮行」と猛批判している。
並行して、ソ連時代に因む地名や通りの名称も改められた。自治体の名称変更だけでも917カ所、通りや広場を含めれば万単位となる。たとえばキエフ市の「モスクワ通り」は20世紀前半にウクライナ独立のために生命を捧げた人物に因んで「ステパーン・バンデーラ通り」となった。
ロシアから侵略を受け、多くの人が目覚め、現在では、ウクライナはソ連に占領されていた、という歴史認識が広まりつつある。
第二次世界大戦の評価も変わった。それまでソ連は善でナチスは悪という解釈だった。しかし、今はソ連もナチスドイツも悪であり、ウクライナはその二つの化け物の犠牲者だったという史実に基づく見解が広まっている。
ヨーロッパにおける第二次大戦がソ連とドイツによるポーランド分割から始まり、ソ連はフィンランド侵攻により国際連盟を除名されている。
こうした史実を見れば、ウクライナの歴史認識は正しく修正されたことが判る。
こうした覚醒は、ロシアの侵略を受けて、戦争になってからようやく実現したものだった。空想的平和主義からもっと早く覚醒していれば、ロシアの侵攻を受けて国土が荒廃し、その一部を奪われるという悲劇を防ぐ道はいろいろあったはずだ。
ウクライナの悲劇を「明日は我が身」として、日本国は防げるだろうか?
考えさせられる話でした。
現状の日本は、かつてのウクライナと同じように見えます。政治家は党派党略、私利私欲で動き、官僚は省益のみを重んずる風潮、国民の大半も日々の生活に追われるありさまでは、「国を守る」という考えすら出てきそうにはありません。
しかも、ウクライナよりも深刻なのは、ウクライナがロシア一国だけとの対峙なのに比して、日本は中国、北朝鮮、ロシアという専制軍事国家と対峙している現実があります。中朝露の三か国から同時に日本が攻め入れられれば、たとえ米軍がいても、三正面の防衛は不可能です。
しかも、日本は島国。どこに逃げることもできません。日本が侵略を受ければ、直ちに本土決戦、沖縄戦の悲劇が日本中に広がるのです。単に防衛費を増額すればいいという話ではありません。本気の国防論議を起こすべき時ではないかと考えます。
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