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エネルギー危機を演出した原発推進派
前回の『脱炭素に逆行する国際社会』の続きです。
ウクライナの人びとにとってロシアのプーチン大統領ほど悪魔に見える存在はないと思いますし、ウクライナの惨状に心を痛める人にとっても同様に思うでしょう。それほどプーチン氏の姿は極悪非道に映ります。
しかし、一方で、プーチン氏の悪魔の所業をひそかに喜んでいる勢力がいるとしたら読者などのように思うのでしょうか。エネルギー高騰による電気ガス料金の値上げや異常な物価高の原因はひとえに、ロシアのウクライナ侵略に端を発するのですが、そこに至る経緯を調べているうちに、私は、プーチン氏を戦争に駆り立て、結果としてエネルギー利権獲得を目論む勢力があったのでは、と考えるに至っています。
その勢力の一つが原発推進派です。ヨーロッパでは環境活動家として有名なグレタ・トゥーンベリさんですら「原発擁護」に回っているところをみると、原発の再稼働、新設の動きが拡大しているように見えます。また、日本でも、原発反対の声は以前より小さくなっているように思います。
なぜなら、石炭火力発電をフル稼働させるとCO2を発生させるだけでなく、中国のように汚染物質の処理をやらない国では空気が汚れるため、「石炭火力よりは原発の方がまだまし」との空気が醸成されつつあるからです。
私自身、日本における原発再稼働は仕方がないなぁとは思っています。しかし、原発は「トイレのない家」みたいなもので、放射性物質の処理についてまだ人類は解決方法を見出していないため、全面的に賛成とは言えないのです。
実際、ウクライナでは、ロシアが15基の原発を破壊するとの脅しをかけられたことがありましたが、もしそのような最悪の事態が起きた場合の被害の大きさを考えると、原発に二の足を踏むのは確かです。
さて、原発推進派にとっては、ロシアがもたらしたエネルギー危機は千載一遇のチャンスになっているようです。石油大手も大儲けのようですが、これは自ら仕掛けていって利益を得たものではない、単なる僥倖です。どうも、このエネルギー危機をしかけたのは原発推進派であるようで、ロシアのプーチン氏を激怒させ、ウクライナ侵略に向かわせたのではないかと思えるのです。
なぜなら、ロシアの安い天然ガスが大量に入ればヨーロッパの原発は全廃されることになるからです。
このことは、ロシアの国営企業ガスプロムが中心となってつくったノルドストリーム2が稼働させられなかったことからもわかります。ロシアがドネツク人民共和国とルガンスク人民共和国を承認すると表明したことを理由に、パイプラインが完成してあとはガスを流すだけという直前にストップをかけられました。
また、9月26日には、ノルドストリーム1と2で計4本のパイプラインのうち3本が何者かの手によって爆破されました。現在修復は済んでいるようですが、パイプライン内部に海水が流入したことでガス管内部が広範囲で腐食し、パイプラインの復旧が困難となる可能性が指摘されています。
プーチン氏にしてみれば、ヨーロッパへ天然ガスを安定供給して、欧州のロシアへの依存を強めさせ、地政学的に優位な立場に立ちながら、自分たちも欧州からの安定した収入によって経済的にも繁栄していきたいとの思惑があったようですが、それがもろくも崩れ去った格好です。
しかも、プーチン氏にとって、ノルドストリーム2の稼働できなかったたことが、「安全保障上の危機である」と過剰に反応させ、ウクライナ侵略をはやめたのではないかと推測されます。今の時代、先に手を出した方が悪いというのは国際常識で、おかげでプーチン氏は稀代の悪党呼ばわりされているわけです。
ロシアの天然ガス流入を阻止したことで、その恩恵を被ったのは、ヨーロッパで今まで小さくなっていなければならなかった原発推進派であることは間違いありません。
今年2月の時点では、EUの執行機関であるヨーロッパ委員会が、原発は環境にやさしい「グリーンエネルギー」として認める方針を示したものの、脱原発を進めるドイツ政府や環境団体などからは反対や批判の声が相次ぎ、ヨーロッパ議会にはこの方針を否決するよう求める動議が提出されていました。
しかし、ロシアのウクライナ侵略で風向きが変わり、7月になってヨーロッパ議会は「原子力と天然ガスによる発電を新基準に含める」ことを可決しました。
これまでEU 諸国は、脱炭素のお題目のもと、本来であればガス資源が豊富にあるにもかかわらず英シェルなど石油・ガス企業は、政府機関や金融機関などの圧力を受けて資源開発を縮小、事業売却も進め、石炭火力発電所を次々と停止し、再生可能エネルギーの普及拡大にひた走ってきました。しかし、それだけで電力はまかなえず、かえってロシアへのエネルギー依存を強める結果となっていたのです。
これらの事実がすべてを物語っているように思います。
ただ、ロシアのウクライナ侵略戦争を起こしたのは彼ら原発推進派だけではないようです。その点を次回お話したいと思います。(つづく)
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