狩江のお祭りと文化論

~愛媛県西予市明浜町狩江地区のお祭りや、四季折々の風景、暮らしを独自の観点からお伝えいたします~

”いりこ納屋”という狩江文化

2010-04-12 22:06:35 | 狩江の暮らし
ふるさと狩江の産業を支え、かつてあたりまえのように風景に溶け込んでいた
文化のひとつ、いりこ納屋がその役目を終えようとしている。

豊饒の海と言われ、目の前に拡がる宇和海は1年中、ホウタレが獲れた。ホウタレは
カタクチイワシとも言い、この地方ではホウタレが一般的。
漁師は夜、そのホウタレ漁に出る。きつい仕事の代名詞でもあり、1晩中舟で漁をし
朝方帰ってくる。そのホウタレは岸に上げられるとすぐさまリヤカーで
いりこ納屋へと運ばれる。そこで沸いた湯で炊かれ、セイロにのせられて天日で
干される。そんな作業をいりこ納屋でおこなっていた。
1階はその作業場、2階は道具などの保管場所。2階では油と潮のにおいがし、
子どものころそこが遊び場でもあった。薄暗く湿ったそんな場所であった。

昭和40年ころまでは、いりこ納屋はあたりまえのように存在していて
各家々ではそこでいりこ製造をし、宇和島吉田あたりからやってくるいりこ問屋に
販売していた。結構相場も良かったと言い、そのいりこを袋詰めする手伝いをよく
やらされたものである。

やがてホウタレ漁はちりめん漁や真珠に代わり、時代とともに納屋も少しずつ
姿を変え、一番古かったこのいりこ納屋もとうとうその役目を終えることとなった。
海の暮らしを支え、多くのホウタレ、ジャミを炊いてきたであろういりこ納屋は
ひとつの浜の風景であり、文化であり、人々の心の記憶であった。