民話 語り手と聞き手が紡ぎあげる世界

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「つうのモノローグ」 その2 「夕鶴」 木下 順二

2012年12月18日 00時10分35秒 | 名文(規範)
 「夕鶴」 木下 順二
 つうのモノローグ その2

 これなんだわ。・・・・・
おかね・・・・・
おかね・・・・・

あたしは ただ 美しい布を見てもらいたくて・・・・・
それを見て 喜んでくれるのが嬉しくて・・・・・

ただ それだけのために 身を細らせて織ってあげたのに、もういまは・・・・・
ほかに あんたをひきとめる手だてはなくなってしまった。・・・・・

布を織って おかねを・・・・・
そうしなければ・・・・・
そうしなければ あんたは もう あたしのそばにいてくれないのね?・・・・・

でも・・・・・
でも いいわ、おかねを・・・・・

おかねの数がふえていくのを そんなに あんたがよろこぶのなら・・・・・
そんなに 都へ行きたいのなら・・・・・

そして、そうさしてあげさえすれば あんたが離れて行かないのなら・・・・・
もう一度、もう一枚だけ あの布を織ってあげるわ。

それで、それで ゆるしてね。
だって、もう それを越したら あたしは死んでしまうかもしれないもの。・・・・・

その布をもって、あんた、都へいっておいで。・・・・・
そして たくさん おかねをもって お帰り。・・・・・
帰るのよ、帰ってくるのよ、きっと、きっと 帰ってくるのよ。

そして 今度こそ 私と二人きりで、
いつまでも いつまでも いっしょに暮らすのよ、ね。ね。・・・・・