民話 語り手と聞き手が紡ぎあげる世界

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「説話文学」は、 橋本 治

2014年12月28日 00時51分37秒 | 古典
 「ハシモト式 古典入門」 橋本 治 1948年生まれ  ごま書房 1997年

 「説話文学」は、インテリの文学 P-89

 「説話文学」というのがあります。各地に伝わる伝説や物語を文字にしたものです。もとは「民間伝承」なんですから、話がぶっ飛んでシュールになることはあっても、そんなにむずかしいもんじゃありません。「おとぎ話も説話文学の一つ」と言えば、そのことはかんたんにわかるでしょう。「説話文学はわかりやすいもの」ではありますが、でもこれを書くのは民衆ではありません。民衆は、これを話すだけで、「字で書いて本にする」なんてことはしません。それを書き留めるのは、字を知っていて文章の書けるインテリだけです。子供向けのグリム童話だって、「グリム兄弟」というインテリが田舎に行って、字が書けないオジサンやオバサンの話を聞いて本にしたんですから、「説話」は民衆のものであっても、「説話文学」はインテリのものなんです。

 日本で最も有名な「説話文学」は、平安時代の終わり頃にできた『今昔物語』ですが、これを見れば、「説話文学はインテリのもの」というのがよくわかります。なぜかと言うと、この文章は、「漢字の書き下(くだ)し文」だからです。漢文を読むのは男のインテリだけですから、そういう文章で書かれたものの「作者」や「編者」や「読者」がどういう人たちかは、かんたんにわかるでしょう。