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「嫁入り道具の花ふきん」  はじめに(その1) 近藤 陽絽子

2016年11月11日 00時10分26秒 | 伝統文化
 母から娘へ伝えられた針仕事 「嫁入り道具の花ふきん」 近藤 陽絽子 暮しの手帳社 2015年

 はじめに(その1) P-4

 「刺し子」は、布の補強や保温のための針仕事です。物が豊かでなかった頃、家族とその生活(くらし)を支えるため、女たちの手の中で育まれてきました。その日の家の仕事が済み、家族が寝静まってから刺す。女でなければできなかった、優しくて、どこか哀しくて、いろいろの想いを包んでいる「刺し子」は、愛おしくてたまりません。
 刺し子の「花ふきん」という、かつて嫁入り道具だった風習を知っていただこうと、二年前に書籍『嫁入り道具の花ふきん 秋田に伝わる祝いの針仕事』(暮しの手帳社)という模様集を出版いたしました。これまでの間、全国各地の方々から、思いがけないほどのあたたかいお手紙や、ご感想をたくさんいただきました。
 私は小さな頃から、「女の手は生活を護(まも)るもの」と教わり、育ちました。また、使われる「用」があって、作る人の願いがそこに込められ、はじめて「手仕事」なのだと思っております。物が豊富にある今では、本来の刺し子の「用」はほとんどありません。でも私と同じように、刺すことで励まされ、傍らに置いておきたいと、愛おしく感じてもらえる手仕事なのだと、しみじみ実感させていただき、涙の出る思いでした。そして、お寄せいただいたお声のなかで多かったのは、「図案と作り方を知りたい」ということでした。これまで私は、刺してみたいと仰る方には、布に線を引き、途中まで刺して、直接手渡してまいりました。手仕事は、手から手へと伝わっていくものだと思うからです。