民話 語り手と聞き手が紡ぎあげる世界

語り手のわたしと聞き手のあなたが
一緒の時間、空間を過ごす。まさに一期一会。

「思考のレッスン」 その5 丸谷 才一

2017年03月23日 00時05分03秒 | 文章読本(作法)
 「思考のレッスン」 その5 丸谷 才一 文藝春秋 1999年

 「書き出しから結びまで」 その3 P-276

 丸谷 次は、文章の半ばのコツ――。

 「とにかく前へ前へ向かって着実に進むこと。逆戻りしないこと。休まないこと」

 話があっちこっちへ飛ぶ書き方というのもあるけれども、これは玄人の藝であって、また別。

 (中略)

 もう一つ、書いてる途中で、「ちょっと中身が足りないなあ」ということがある。そのときに、どうすればいいか?

 僕なんかそれで暮らしを立ててる身だから当たり前だけれど、人の文章を読んでいて、「あ、ここからここまでが水増しだ」とわかる。ことに随筆なんか、如実にわかっちゃう(笑)。随筆って、具合の悪いことに枚数が指定されているでしょう。10枚書いてくれとか。あんまり書くことがなくても、決まった枚数は埋めなきゃならないからたいへんなんですね。
 でも水増しというのはなにか興ざめするものでね。読んでいて急に味気ない気持ちになる。
 では、水増しとわからないようにするための書き方は何であるか?実に簡単です。水増しをしないこと(笑)。

 まず自分の書く中身を考えて、どうもこの枚数には、これじゃ足りないぞと思ったら、もう一度、考え直す。この内容で何枚書けるかということは、たくさん書くとわかってくるんです。ところが、この考え直すことをみんなしたがらないのね。

 ――せっかく考えたんだから、なんとかそれで間に合わせたいんです(笑)。

 よく、「原稿用紙が埋まらない」とウンウン言いながら書いている人がいるじゃない。一体に、考える時間が短いから、書く時間が長くなるんです。たくさん考えれば、書く時間は短くてすむ。