民話 語り手と聞き手が紡ぎあげる世界

語り手のわたしと聞き手のあなたが
一緒の時間、空間を過ごす。まさに一期一会。

「語りの場と形式」 佐藤義則

2014年05月21日 00時21分26秒 | 民話(語り)について
 「全国昔話資料集成」 1 羽前小国昔話集  佐藤 義則(昭和9年生) 岩崎美術社  1974年

 「語りの場と形式」  (編者ノート 佐藤義則 より)

 また、一家の内にあっては、囲炉裏と語りの場は切り離しえないものである。
四角な炉辺の周囲には各々の名称があり、客人の出入りする「半戸(はんど)の口」から近い一辺は
「客座」で、もっぱら、客用である。
その向かいの一辺は「嬶座(かかざ)」とか「女座(おなござ)」と呼び、一家の主婦の座であり、
客の接待はこの座から手をさしのべて茶などをさし出す。
他に一家の者や牛馬の出入りする土間(にわ)の口の「大戸(おど)の口」から土間をへて
一番近い炉辺の一辺は、「木の尻(すり)」とか「下尻(すもずり)」「下座(げざ)」と呼ばれ、
子供や下男下女、嫁などの座で、焚き木の運び入れや、
くすぶる大榾の根っこの尻はいつもこの方を向いている。

 この「下尻」の向かいが「横座」で、主人専用の座である。
「猫、馬鹿、坊主」といって、主人以外は横座にすわることを許さない。
猫と馬鹿な者は分別がないからしかたがない。
和尚の来訪時には主人が横座をゆずる作法がある。
「客座」を中心にして奥座敷の方が「横座」で、その家の構造によって「横座」「下座」は違いがある。

 炉を「ゆるり」という。
「ゆるり」の中に一組の火箸と灰平(あぐなら)しを「 嬶座」と「横座」の角に立てて、
「 嬶座」の者が管理とする。
一つの炉に一組以上の火箸を入れることを「家(え)ん中もめする」といって忌(い)む。
俚諺に「鋸の目立て(刃研ぎ)と、トメ火は他(しと)さ頼むものでない」という。
夜のトメ火は、翌朝まで燠火(おきび)が残っているように埋め火をするのを良しとする。
これが主婦の重大なつとめであった。
現今のマッチのように簡単な発火物をもたない昔は、とくに重要視されたものである。

 大晦日の年夜には、一旦火を消して、元朝に新しい火をきって焚き初める法と、
「大年の火」話のようにトメ火をして、翌元朝に燠(おき)を掘りおこして焚きつぐ法や、
年夜は火をたやさずに元朝を迎える法など、家例の違いがあるが、
常の日は燠が残っているようにトメ火をするのである。
火箸も灰平(あぐなら)しも、夜には必ず炉縁に寝かせておくものとする。

 炉火を守るのは火箸をもつ主婦の役である。
昔コ語りの折に語り手へ火箸を渡す作法があり、この時間ばかりは火箸をもって火をつぐ役を
課せられるのである。

 中略

 「昔話」を聞きに歩いて、「昔話ば聞がへでけろ」とねだっても、昔話とは「昔の話」で、
世間話や伝説と思い込んで語りだす人がほとんどである。
昔話は「トント昔コ語ってけろ」でないと、猿や雀の昔話は聞けないし、
『昔話集成』の分類になる題名をかかげても、語り手には無関係なのである。
鬼の登場する話は「鬼コむがし」であり、猿なら「猿コむがし」なのである。
聞き手が欲しい話を注文する時は、その話のもっとも印象的な部分をひき出して、
「♪ 爺な豆コ千粒えなァれ、ってゆうムガスコ語ってけろ」(豆まき爺)とか、
「♪ 土食って口渋え口渋え、ってゆうムガスコ語ってけろ」(雀と燕と木つつき)といって、
ねだるのである。


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