その人を見て悟空はびっくりします。何故なら、そこには悠々と笑っている自分とそっくりな身体の大きさも瓜二つの人がいたのです。
自分は双子だったのかと一瞬思いましたが、母を失い天涯孤独となった悟空には産まれた記憶などありません。
「お前は誰だ」
と悟空は恐れながらききます。
自分にそっくりな人は、微笑みますが何もいいません。
「誰だときいているだろ!」
悟空はイライラしていました。
その人は黙って鏡を渡してくれました。
すると、その鏡は光を放ち映像を写し始めました。そこには、自分の知らない自分が映っています。
「あのお母さんのもとに産まれる!」
と悟空が母のお腹に入った時から、お腹の中にいる悟空の誕生を本当に楽しみにしている母の姿、そして、天国へ旅立つ時母が
「ごめんね。育てる事ができなくなって。」
と泣いて、悟空の命だけは神様お護り下さいと祈りながら息を引き取って亡くなった姿が映し出されました。さらには、その後の悟空の生きてきた姿まで、走馬灯のように映しだされました。
改めて鏡で自分をみると、物を奪って、周りを恨んで生きてきた悟空は恥ずかしくなり消え入りたくなりました。
「なんて自分は醜んだろう。」
次に、傷だらけの自分の今の顔が鏡にうつりました。その傷は、自分がいままでに周りの沢山の人に与えた傷と重なって見えました。
悟空は息が出来なくなりそうでした。
次に、何かを背負いながら細いトンネルをくるくる回転して進んでいる姿がうつりました。
とても小さい自分がとても大きなものを背負っていました。息が出来ない、早く外へ出たい、そんなさっきトンネルで感じた感覚を思い出しました。ひとりで全身に苦しさを感じながらも、背負ったこれだけは守り抜かなければという使命感をうっすら思いだしました。
するとお母さんから分離される感覚を思いだしました。お母さん、僕はいきるよ!もう大丈夫だよ!産んでくれてありがとう!と大声で泣いて知らせていたことを思いだしました。
記憶に無い母が自分を嬉しそうに抱く姿を鏡で見ることが出来ました。
悟空は涙がでてきました。
「お母さん、ごめんなさい」
自然と言葉が出てきました。すると、鏡を手渡した自分にそっくりな人は、いなくなっていました。
あっ、、
鏡も悟空の手からすっぅと消えてしまいました。悟空はぽつんと大きな木のそばに立っていました。振り返ってもトンネルはどこにもありません。
「また、ひとりにしないでくれ。ひとりになりたくない。なりたくない。」
悟空は木の下で大声で叫び泣きました。
すると、どこからか風がふいてきて、風は悟空の耳元で囁きました。
「まだまだ道半ばです。歩くのですよ。ご く う。」
悟空の背中を温かい風が押してくれました。
つづく