のんのん太陽の下で

初めての一人暮らしが「住民がいるんだ・・・」と思ったラスベガス。
初めての会社勤めが「夢を売る」ショービジネス。

緊張以上の不安

2007-09-22 | KA
 左から襲いかかる者を見、右を振り向くと同時にお客さんの足元に倒れました。起き上がれないことはない、でもどこかの意識が安静を求めていました。「このシーンは戦いから自分の身を守り、隠れていれば良いわけだから、しばらくはこのままで居られる…。」タイミングを逃さないように曲を聴きながら、できるだけ長く倒れ臥していました。「ああ、もう行かないと…。」起き上がり舞台にいつもよりゆっくりと上がって、フルートを取りに行き、いつもよりゆっくり彼らを追いかけ、舞台袖に入り込みました。
 「大丈夫?」と声を掛けられてもなんと答えていいものか。頭はキュッとなって、蹴られた衝撃を守っているかのように硬くなっていました。果たしてこの後踊れるのか。フィジオに行くように言われました。その前に衣装替えをしておこうと更衣室に行き、鏡を見ると、カツラはぼろぼろにほどけていました。カツラを直したり、フィジオに行ったりして、身体を動かす時間はきっとありません。そして、この頭の状態で動いてもいいものなのか。それに加えて友人も観ていました。いろいろなことが頭をめぐり、涙が出てきました。そのたびにメイクを直して、ようやく舞台に向かいました。
 「今日はもう“舞台の神様”にお願いしよう。」初めてそう思いました。そして、あと出来ることは、1000回以上の今までの舞台経験を信じることです。踊りながら意識が半分ないのが分かりました。でも半分は何かを考えているのだからまだ大丈夫かもしれない。最後にフルートを上げる時「ここまで頑張ったのだから、最後まで頑張ろうよ。」そう思いました。フルートは手の中に入ってきました。
 昨日、車が急にコントロールを失い「死に掛けた。」という友人が、「生きていられたのだから、みんなとハグをしたい。」と涙目になって来ました。
 エピローグのときに彼のことを思い出しました。そして、この舞台を生きて終えられたことに涙が出ました。
 一回目のショーのあとは、キュッとしていた頭がほどけてきて、調子が良くなっているのが分かりました。私の代役は2回目のショーはアウトということで、本日の予定通り、無事に自分が出られることになりました。なんだかおもしろいな、と少し思いました。
 涙でぐちゃぐちゃになったメイクを直して、2回目のショーに気持ち新たに向かいました。
 ところがです、アーチャーズデンで静かに待機しているときに、気持ちが悪くなってきていることに気がつきました。これは良くない状態…。そして、頭がゆるくなって、中身がゆらゆらしているような感覚。一回目のようにキュッとしていたら守られている感じでまだ安心でした。 
 「できないことはない、でも、この中身のぐらぐらした頭を動かしたら、その後自分はどうなってしまうのだろう。」
 今、本当は安静にしていなければならないことを強く感じました。「でも、動かさないわけにはいかない。もうこの一回が最後になるかもしれない。」そこまで思いました。頭を大きく振ることを避けながら舞台に立っていました。踊る前も身体をあまり動かさないでバトンの操作だけを確認するしかありませんでした。
 舞台袖に待機する自分を見つめ、「緊張というのは健康な身体があってできるものなのか。」と思いました。
 双子の男の子に恋をしている時、本当にぽーっとして意識が一瞬なくなっていました。「あ、いけない。」それから、男の子を逃がしてから、客席に背を向け、ケイジに一つフルートを置くと、涙が出そうになりました。「始めないと…。」
 無事に踊り終わっても、その後の自分がどうなるのか、不安で不安でたまりませんでした。
 舞台の最後、前に出てお客様に手を振る時は、いけないことと分かりながら、大粒の涙をぽろぽろとこぼしながら居ました。

 ショーが終わりいつものようにトレーニングルームに向かい、ようやく身体が求めている安静の状態になれました。「このままずっと寝ていたい。」そして、私の明日がありますように。