落ちた物は見付かりました

　ケイジへの入り方が良くなかったのか、ケイジに入ってからフルートを上手く回せませんでした。そうこうしていると舞台がいつもより下がってしまい、持ち方を変えてフルートを高く上げ、お客様に見えるようにしてみました。すると、フルートがケイジに当たり、ケイジに入って逆さになって揺れている私の視界から消えていきました。
　完全に舞台が下がり、ケイジから出てみると、フルートが見当たりません。どこかに挟まってしまったら、舞台の動きに影響が出るかもしれません。舞台の下に落ちたとしたら押しつぶされるかもしれません。自分で探す時間はないので、急いで水筒を取りに来たプロップスに伝え、探して頂くようにしました。次の待機場所に走っているときにはプロップスの人が探して下さっているのが見えました。
　スレイヴケイジが終わって舞台が下りていく時に、プロップスの人が「どっちに落ちたか分かる。」と訊いてきました。まだ見付からないようです。私は行く先を最後まで見届けられなかったので全く分からなかったのですが、着付けの人が見ていたようで、「ここら辺だったよ。」とひょいっと手を伸ばすと、彼の手の中にフルートが入ってきました。これで無事に、慣れたフルートで二回目のショーもできます。
　そして今度は二回目のショー、スレイヴケイジの時です。奪われたスカート、カウンセラーに従う家来たちを凝視し、目を落とすと、目がとても乾いているのが分かりました。瞬きをすると、少し痛いようで、涙もでました。「ん、涙…？」。嫌な予感がした途端に、その“涙”は舞台に落ち、目を落とした先に、キラリと光りました。透明な半球のもの…。ショーの間にこれが落ちたのは今回で３回目でしょうか。前回のフルートを回す前に落ちた時よりは、全く慌てることではありません。じっと伏せながら、その物体をじっと見つめて、その周りにある、コルクや花びらをチェックして、その位置を覚えるようにしました。
　双子の男の子が助けに来たときに、その場を飛び越えるようにフルートを渡しに行き、戻るときは大きく迂回しました。その後、誰もそこに行かないことを祈りながら、舞台が下がり着付けの人が用を終えるのを待ち、すぐにライトがあるか尋ね、ここ、と思う場所を照らしてもらいました。光りはその物に真っ直ぐに当たり、キラッと光りました。「え、コンタクトレンズ見付けられたの？」「はい、お蔭さまで。」
　落としたもの、二つとも、無事に見つかりました。


　素敵な風呂敷包みが届きました。さりげなくて、しおらしくて、私もこういう女性になりたいと思いました。