Information – 四方館 DANCE CAFE –「出遊-天河織女篇-」
―山頭火の一句―
句は昭和5年の行乞記、9月20日の項に
9月20日、晴、小林町-現宮崎県小林市-、川辺屋
夜はアルコールなしで早くから寝た、石豆腐-この地方の豆腐は水に入れてない-を1丁食べて、それだけでこぢれた心がやわらいできた。
このあたりはまことに高原らしい風景である、霧島が悠然として晴れわたつた空へ盛り上あがつてゐる、山のよさ、水のうまさ。
西洋人は山を征服しようとするが、東洋人は山を観照する、我々にとつては山は科学の対象でなくて芸術品である、若い人は山を踏破せよ、私はぢつと山を味ふのである。
―世間虚仮― 脱税の温床?
ほとんど雨も降らぬのに梅雨入り宣言とか、珍しいことだ。それでも昨年より12日遅く、平年より3日遅いのだと。
「宗教法人がラブホテル経営」だと!
見出しに驚かされたが、よくよく読んでみると、狡賢い会社経営者がすでに休眠状態となっていた宗教法人を買収したうえで、脱税に悪用していたらしい。この御仁、計23軒のラブホを実質上経営、宿泊や休憩の全売上のほぼ4割をお布施として除外、14億円も所得隠しをしていたというから、あくどさにかけてはなかなかの剛の者、背任容疑でこのところずっと紙面を賑わしている漢検の私物化親子にも負けてはいない。
宗教法人も公益法人の一つだが、漢検同様、この手の脱税や背任行為、洗い出せばゴマンと出てくることだろう。底なしの不況で税収は悪化の一途なのだから、この際、国税庁は公益法人を徹底して調べ尽くすべし、か。
―表象の森―「群島-世界論」-11-
全編628頁、20万語近い語彙を数えるジョイスの「フィネガンズ・ウェイク」の大海のなかに、三度にわたってとびとびに、蜃気楼のように揺らめく不思議な島「ブラジル」が登場する。いかにも不意に。その綴りは、BlasilだったりBrasilだったりBreasilだったりと、わずかな変異を繰り返しながら、ジョイス的イマジネーションが新たに創造した未知の世界図のなかで魅惑的な音の群島を形成しはじめる。私の耳は、とりわけこのジョイスのなかのブラジル音の変異に惹きつけられてやまない。
いうまでもなく、サモアをサモアネシア、タスマニアをトスマニア、あるいはオリノコをオロノコとわずかにずらして綴ることで世界中の島や河を因習の地理学から見事に引き剥がし、どこにもないからこそどこでもありうる、「ダブリン」=「世界」そのものの無数の架空名辞を増殖させ繋ぎ合わせてゆくのが「フィネガンズ・ウェイク」である。
すでにアイルランドには、少なくとも14世紀の初め頃から、「ブラジル」乃至「ハイ・ブラジル」と呼ばれる海の彼方にある理想郷、常若の島の伝承が明らかに存在していた。
さらに、5世紀末のアイルランド南西部湖沼地帯に生まれた修道士、聖ブレンダンの伝説的な航海譚にまで遡れば、聖者による約束の土地、楽園の島発見の伝承に惹かれ、いつしか「ブレンダンの島」なる名が、中世期以降の世界地図に登場していたのである。
-今福龍太「群島-世界論」/11.ブラジル島、漂流/より
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