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―四方のたより― この恐怖から逃れきれるか
3.11、宮城沖に発した地震、M9.0という、その激甚さ―
直後に襲来した未曾有の大津波―
三陸海岸ばかりか、東北の太平洋岸一帯にもたらされた、想像を絶する惨劇をまえに
ただ鬱々と黙するほかない日々がつづく
とりわけ原発破壊による放射能漏れの事態収拾は未だ解決せず
その恐怖は果てしない精神的抑鬱となってこの列島を覆いつくしたままだ
想定外だった、と口を揃えていう―
だが、自然の猛威は、つねに想定の外にありうるものなのだ
想定の外にあることが、起りうる、ということ
いや、現に、あってはならぬことが、起こってしまったのだ―
人は、われわれは、この恐怖から逃れきることができるのか
この恐怖を克服することなど、はたしてできるのだろうか
<日暦詩句>-23
この衰残をきわめた地方を何としよう
花田民の嵐が立ち去つたあとのように
赤茶けた土塊はぼろぼろとくづれるばかり
喬木には鳥さへもなかず
疎らなる枝々はひたすらに大地をねがう
ああこの病みほけた岸辺に立つて潟を望めば
日没はあたかも天地の終焉のごとく
あるいは創世の混沌のごとく
あの木小屋の畦りで人間のむれは
愛のささやきも忘れはてた‥‥
とおく不毛の森林のかげに
村落の集団のいくつかがかくされているのであろうか
わたくしは知らない 昔ペテロが
何故に滂沱たる涙をながしたか
–以下略-
―中村稔詩集「無言歌」所収「ある潟の日没」より
花田民-かでんみん-―嘗て朝鮮半島山岳地帯で焼畑農業を営んだ生活困窮の農民たちのこと。とりわけ日本総督府支配下において増加、半島北部の山林はほとんど禿山と化した、という。
―2月の購入本―
亀井孝他編「日本語の歴史-5-近代の流れ」平凡社ライブラリー
〃 「日本語の歴史-6-新しい国語への試み」平凡社ライブラリー
加藤隆「歴史の中の『新約聖書』」ちくま新書
茨木のり子集「言の葉-1-」ちくま文庫
神田千里「宗教で読む戦国時代」講談社メチエ
宮本徳蔵「力士漂泊-相撲のアルケオロジー」講談社文芸文庫
―山頭火の一句― 行乞記再び-昭和7年-156
6月13日、同前。
-略-、三恵寺へまた拝登する、いかにも山寺らしい、坐禅石といふ好きな岩があつた、恰雲和尚-温泉開基、三恵寺中興-の墓前に額づく、国見岩といふ巨岩も見た、和尚さん、もつと観光客にあつてほしい。
酒はもとより、煙草の粉までなくなつた、端書も買へない、むろん、お香香ばかりで食べてゐる、といつて不平をいふのぢやない、逢茶喫茶、逢酒喫酒の境涯だから―しかし飲まないより飲んだ方がうれしい、吸はないより吸ふた方がうれしい、何となくさみしいとは思ふのである。
南無緑平老如来、御来迎を待つ!
今日は句数こそ沢山あるが、多少でも自惚のある句は一つもない、蒼天々々。
どうやら寺領が借れるらしい、さつそく大工さんと契約しよう、其中庵まさに出来んとす、うれしい哉。
※表題句の外、9句を記す
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Photo/三恵寺にある伝承の国見岩、現下関市豊浦町
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Photo/三恵寺境内の石仏たち
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