―四方のたより― 亀岡、楽々荘にて
7日間の北の旅からやっと帰宅し、ほっと息つくまもなく出かけたのは5時過ぎ。車で向かったのは亀岡の楽々荘。
阪神高速池田線から都市高池田木部線を走って木部第一INを下りると国道423号線に出る。箕面の西部を通り豊能町を抜けて豊岡へと抜けるこの峠道は、何度か走ったことはあるが、休日の所為もあってか対向車にほとんど会わない。
亀岡市役所のごく近く、市の中心街に占める広大で閑静な空間、明治から大正、京都にあって関西の政財界に君臨した田中源太郎の旧邸、国の登録有形文化財でもある楽々荘に着いたのは、約束の7時にまだ十数分余裕があった。
約束とは、秋山巌画伯のお嬢さんこと町田珠美さん提唱の、此処=楽々荘でのビアパーティだ。
山頭火の句やふくろうを題材にした版画で知られる秋山巌氏は1921年生まれというから今年90歳。
そのお嬢さんが仙台で「秋山巌の小さな美術館―ギャラリーMami」を運営しており、ネツトを通してお近づきになったのは昨年の10月だった。
3.11の被災以後、夫と二人暮らしの彼女たちの日々もずいぶんと大変なものだったらしい。その辛苦と奮闘の4ヶ月余にひとときの慰安を求め、さらには三田で夫君の大腿部の義足新調も兼ねての関西への小旅行、その一夕に設けた知友たちとのパーティといった趣向で、集った人数は12名ほどだが、みな一家言ありの猛者揃い-失礼!-で侃々諤々賑やかに酒も食も進む。初お目見えの此方は車だからウーロン茶で、文字どおり茶を濁すしかないのだが、それでも結構愉しく時間を過ごした三時間だった。もちろん初会のパーティなんぞにわざわざ遠出をしてまで顔を出すについては、ただ山頭火縁りばかりでなく、想う一事あってのことなのだが、その所期もさしあたりは果たせたかと思われる。
午後10時を過ぎた帰りの峠道の運転は些か堪えたが、眠りたくなるほどのこともなく一時間余で無事帰参。やっとのんびりと冷や酒にありついて、あとはばったりと倒れ込むように眠り込んだ。
―山頭火の一句― 行乞記再び-昭和7年-203
7月31日、いよいよ出かけた、5時一浴して麦飯を二三杯詰めこんで勢よく歩きだしたのである、もう蝉が鳴いてゐる、法衣に飛びついた蝉も一匹や二匹ではなかつた。
暑かつた、労れた、行程8里、厚狹町小松屋といふ安宿に泊る、掃除が行き届いて、老婦も親切だが、キチヨウメンすぎて少々うるさい。
行乞相はよかつた、所得もわるくなかつた、埴生1時間、厚狹2時間、それだけの行乞で食べて飲んで寝て、ノンキに一日一夜生かさせていただいたのだから、ありがたいよりも、もつたいなかつた。
明日は是非小郡まで行かう、そして宮市へ、そこで金策しなければならない。‥‥歩くはうれしい、水はうまい、強烈な日光、濃緑の山々、人さまざまの姿。-略-
※表題句の外、4句を記す
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